No.1317 ≪まだら景気に備える≫-2024.6.19

中小企業基盤整備機構が定期的に約18000社の中小企業の景気動向調査を行っています。第1四半期(2023年1月~3月)の調査結果を公表しています。

景気動向について「好転」「不変」「悪化」の内、「好転」-「悪化」をDI(景況感)として表示しているものです。

この調査における中小企業の定義は、製造業・建設業は資本金3億円以下又は従業員300人以下の企業、卸売業は資本金1億円以下又は従業員100人以下の企業、小売業は資本金5千万円以下又は従業員50人以下の企業、サービス業は資本金5千万円以下又は従業員100人以下の企業を対象としています。また中小企業の約8割を占める小規模中小企業の定義は、製造業・建設業は従業員20人以下、卸売業・小売業及びサービス業は従業員5人以下をさします。

調査結果を見てみましょう。
中小企業全体の景況感(DI)を見ると、コロナ前の2019年1-3月期の DI(景況感)は△20.1でしたがコロナ後の2024年1-3月期は△18.3で多少は好転したという印象です。大企業の春闘は5.58%という満額回答ブームでしたが本統計には反映されていません。中小企業も5.17%賃上げしましたがどこまで価格転嫁できるか不安は強いと思われます。近年の最悪期はコロナパンデミック宣言中の2020年4-6月期の△66.7です。経験したことのない未曽有の最悪期を生き抜いた中小企業は免疫ができたと言えます。国の補助金も潤沢に投入されたこともありゾンビ企業も無数にありましたが、2023年5月の5類変更によりあらゆるコロナ関連補助金がなくなり、今はゾンビ企業の淘汰期ともいえます。倒産企業は増えていますが、きわめて健全な現象です。DIはそれほど悪くありません。

業種別にDI(景況感)を見てみましょう。これより、コロナ前(2019年1-3月期)を19/1Q、最悪期(2020年4-6月期)を20/2Q、コロナ後最新(2024年1-3月期)を24/1Qと表記します。
1.製造業は19/1Qが△18.2でしたが24/1Qは△19.9と多少悪化していますが、これは原材料価格や物流費の高騰を転嫁し切れていない結果ではないかと思います。20/2Qの△70.3からは完全に回復しています。
2.建設業は19/1Qが△4.3と絶好調でしたが24/1Qは△14.5と相当悪化しています。20/2Qの△38.1からは受注回復していますが、総じてコロナの影響は少なかった業種と言えます。
3.卸売業は19/1Qが△20.1でしたが24/1Qは△15.1と改善しています。20/2Qは△69.8ですので順調に回復して明るい見通しになっています。
4.小売業は19/1Qが△32.2でしたが24/1Qは△28.4と多少の改善が見られますがそれほど変わりません。円安の影響やメーカーの値上げ攻勢が影響しているのでしょう。20/2Qは△70.4ですので危機は脱したものの明るい見通しとはいえない状況です。
5.サービス業は19/1Qが△18.5でしたが24/1Qは△11.7と大きく回復しています。円安の影響やメーカーの値上げ攻勢が影響しているのでしょう。20/2Qは△72ですので飲食業・宿泊業・旅行業はインバウンドの恩恵もあるでしょうが、それ以外のサービス業はあまりよくない状況にあると思われます。

では4月以降の景況感を5年前はどう見ていたか、今はどう見ているかを見てみましょう。全業種において4月以降の景況感は悲観的です。これは賃上げによるコストアップをいかに価格転嫁できるか、総じて人件費は価格転嫁しにくいこともあり、不安が強いと思われます。
1.製造業は5年前には△22と判断していましたが、2024年4月以降の見通しは△30(現1-3月△19.9)と比べると相当悲観的です。しかも今よりも悪化すると判断しています。
2.建設業は5年前には△3.8と明るい判断をしていましたが、2024年4月以降の見通しは△16(現1-3月△14.5)と相当悲観的です。
3.卸売業は5年前には△29.6と悲観的でしたが、2024年4月以降の見通しは△27(現1-3月△15.1)と変わりません。しかし、今より相当悲観的に判断していることがわかります。
4.小売業は5年前には△40.7と相当悲観的でしたが、2024年4月以降も△36.9(現1-3月△28.4)と変わりません。問題は今よりさらに悲観的になっていることです。
5.サービス業は5年前には△23.1でしたが、2024年4月以降は△19.9(現1-3月△11.7)と期待しているものの今よりは悪化すると判断している方が多いようです。

日本の企業の99.7%を占める中小企業359万社の大方の経営者が先行き悲観的な思考をしていることは悲しいことですし大問題です。大企業は円安効果とはいえ空前の好決算をしています。中小企業がその犠牲になるのは間違いです。モノは考えようです。マイナス+マイナス=マイナスですが、マイナス×マイナス=プラスです。これをどうとらえるかです。自然は4000万種類の生物の生態系により成り立っていますがどの種が消滅しても負の連鎖が重大な危機を孕みます。同様に企業においても強い企業だけでは経済は成り立ちません。大企業のコストダウン要求を受け容れて負債を抱えて撃沈するのではなく、自らの生存武器に目覚めてそれを磨き、自ら変化変態させることで生存しなければなりません。それが出来なければ淘汰されることが自然です。自社の他社にない付加価値を磨いて、成長できる市場を求めて正当な価格を訴求してゆく絶好の機会です。
自社の強みに気づいていない企業がいかに多いか。また、自社の強みを鍛えていない企業がいかに多いか、40年間の経営コンサルタント経験から実感しています。「採算が合わないので廃業します」と宣言して「そうですか」と言われれば存続価値を創造してこなかった怠慢により淘汰されることが自然です。「ちょっと待ってくれ。御社が立ち行くようにするから頼むから頑張ってほしい」と相手に言わせねばなりません。他社にない付加価値を適正な価格で正当に訴求できる勇気を持ちましょう。