No.1287 ≪価格支配力をつける決断≫-2023.11.17

「マークアップ率」という世界共通の指標があります。分母に人件費を含まない生産コスト、分子に販売価格として生産コストの何倍の販売価格を実現しているかを見る指標です。この指標は価格支配力、つまり企業の値上力を見るには非常に有益な指標です。これからの企業の強さの指標は値決め力になると思います。
経済産業省の「第四次産業革命に向けた産業構造の変化と方向性に関する基礎資料」で1980年〜2020年までの40年間の推移を見ると、日本は2000年までは右肩上がりに上昇していましたが、2000年に入ったころからほぼ横ばい、コロナ禍になってから若干上昇していますがそれでも1.15倍程度で推移しています。
つまり、バブル景気のころは値上する力(マークアップ率)は上昇しましたが、崩壊してからは目も当てられない状態になりました。世にいう「失われた30年」は値上げどころかデフレに入ってしまったのです。
そのころのアメリカは一貫して右肩上がりでした。40年間で1.15倍から1.6倍まで上昇しています。特にコロナ以降は急カーブを示し高い上昇率になっています。

もう一つの資料があります。2023年8月29日発行の「経済財政白書」を元にした8月30日付の日経新聞の記事があります。これによりますと、アメリカの場合は上位10%のスター企業がマークアップ率を牽引しており、その他の企業のマークアップ率はほとんど横ばいになっています。つまり、上位10%の企業は果敢にM&Aを繰り返し、独占化や寡占化を進めることで価格支配力を強めているのです。中でも情報産業業界はこの傾向が顕著になっています。一方日本では、寡占化がなかなか進まないこともあり、全体的に価格支配力が弱い傾向があります。うまくいったのは鉄鋼業界ぐらいでした。

更に、内閣官房日本経済再生総合事務局が発信している基礎資料はさらに詳細に分析しています。基礎資料によるとアメリカと日本のマークアップ率、価格支配力の決定的な違いは2016年以降に顕著で、アメリカでは著しい価格支配力をもったごく少数の企業が登場してきているのです。それまではせいぜい2倍程度のマークアップ率でしたが、2016年以降は8倍〜10倍という企業が誕生しているのです。
それまでなかったタイプの企業が登場しているのです。主にGAFAMがこれにあたると想定されます。この傾向はアメリカだけに限ったことではなく、アメリカ以外の先進国でも8倍以上のマークアップ率を実現している少数の企業が出現しているのです。
日本ではマークアップ率が3倍程度の企業は少数ですが存在します。しかし、先進諸国ほどのレベルには到底及びません。

このように見てくると大企業でさえうまくいっていないのに、中小企業がマークアップ率を高めて価格支配力を持つには至難の技のように思えてきますね。ところがそうではないのです。
年商30億円未満、社員数100名未満の中小企業が世界シェアを独占している企業が沢山あります。
日経新聞のデータからランダムに社名(社員数)/所在/製品/シェアを紹介させていただきます。

ナイトライド・セミコンダクター(10名)/徳島/ATM用紫外線LED/80%
マイクロ・トーク・システムズ(16名)/東京/トライアスロン用タイム計測タグ/50%
ティ・ディ・シー(56名)/宮城/超精密鏡面加工/100%
西村鐵工所(50名)/佐賀/液体乾燥機/100%
YSテック(22名)/大阪/耐熱バーコードラベル/100%
東北電子産業(50名)/宮城/極微弱発行計測装置/80%
ユニソク(42名)/大阪/超高真空走査型プローブ顕微鏡/70%
エンジニア(30名)/大阪/ねじ外し専用ペンチ/100%

いずれもモノづくり系の会社ですが、小さな特殊市場(ニッチ市場と言えるかもしれませんが)で、他の追随を許さない高品質はモノづくりをすることで、価格支配力を持つ事が可能になります。大きな市場でトップ5に上り詰め価格支配力を持つ方法もあるでしょうが、そうでない方法もあるのです。

中小企業が努力して成長してゆくと、今まで見向きもしなかった大企業がその市場に魅力を感じて参入することはよくあることです。そうすると、大企業の得意技は「弱い者いじめ」戦略ですから、営業・生産・財務にものを言わせて総合力で低価格を打ち出し市場を席巻してしまいます。そうならないようによく見極めながら経営しなければなりませんが、まずは「価格支配力を持つ決断」をすることから入ろうではありませんか。