昨秋の衆院選敗北に続いて夏の参院選2025も与党敗北で終わり、衆参両院で連立を含む自民党政権が少数野党となるのは1955年結党以来初めてだとか。誰もが予想していた現実のものになると「潮目」が変わったことを実感します。私たち中小企業経営者にとっては悩ましい環境にならざるを得ないと思います。
トランプ関税は鉄鋼・アルミ製品は2月13日(東部時間)以降50%、自動車は4月3日(東部時間)以降、自動車部品は5月3日(東部時間)以降2.5%+25%で27.5%の関税が実施されています。先ほど入った速報によりますと、トランプ関税は「自動車・自動車部品は25%→15%、その他の製品については15%」で合意し8月1日より実施されるとのことです。表向きの数字は喜ばしい結果になりましたが、日本には花を持たせて実質は『自主規制』が有効だと知っているアメリカが花より団子の密約を取っていないことを祈るばかりです。トランプ関税は同盟国も含めた全世界の国々を対象にしていますので今後どのような変化が起きるかわかりません。
関税政策は世界恐慌や戦争につながるとして、第一次トランプ政権で解禁されるまで戦後80年近く封印されてきました。戦後の自由貿易の潮流のなかで軍事力に裏打ちされた外交努力がなされてきましたが、保護貿易にシフトするのか、あるいは別の仕組みに変わるのかよく観察しないといけない段階です。
そこで、戦後の主な対米貿易摩擦を振り返って頭の整理をしたいと思います。日本が様々な対日圧力や課題に環境適応して対米輸出を増やすと必ずと言ってよいほど摩擦が起きました。背景にはアメリカの貿易赤字の増加があり、1965年のベトナム戦争中盤から対外貿易赤字に転落し、一度も黒字になることなく60年間増加の一途をたどっています。アメリカの対外貿易赤字累計は実に15兆6050億ドルに上ります。一方日本の対米貿易収支は1960年に黒字になってから一貫して黒字を続け累計では4兆2410億ドルで、アメリカの対外赤字の27%を占めます。勿論、日本が努力した結果ですし、アメリカの力づくの居丈高な姿勢や製造業の怠慢もありますが一つの事実として捉える必要があります。弱い経済の日本に変わり今は中国がアメリカの交渉対象になっています。
日米の大きな摩擦は3回、その後抜本的な関係作りでプラザ合意及び構造協議が1回あります。いずれも背景には貿易赤字の増加が起因しています。
1969年「繊維摩擦」(共和党・ニクソン大統領)は高品質・低価格な繊維製品の対米輸出増加に対して自主規制を要求し、日本が拒否するとアメリカ議会は輸入割当を法制化し「日米繊維協定」を締結して終結。これが対日交渉のモデルとなりました。以後、繊維産業は衰退してゆきました。
1970年代後半「自動車摩擦」(共和党・レーガン大統領)は燃費が良くて故障が少ない高品質・低価格の小型車がアメリカ市場を席捲し、自動車生産台数はアメリカを抜いて世界一となり、その結果としてBig3が苦境に陥り日本に自主規制を求めました。「日米自動車協定」で輸出自主規制することで決着。日本メーカーは最大市場の北米大陸で現地生産を増加してゆきました。
1980年代「半導体摩擦」(共和党・レーガン大統領)は通産省(現経産省)肝いりの日の丸半導体が市場を席捲し、アメリカメーカーが苦境に陥ると日本に市場開放を求めました。「日米半導体協定」(1986年)で輸出自主規制することで決着。開発予算が少ない日本の半導体産業は衰退の一途となりました。
アメリカは3回の交渉にかかわらず依然として貿易不均衡が改善されないとの理由で「プラザ合意」(1985年)により日本に円高シフトをG5が歩調を合わせて飲ませたり、様々な圧力をかけてきましたが、日本は耐えてその都度不死鳥のように復活しました。
1989年にそれでも貿易赤字は解消されず、双子の赤字に苦しんだパパ・ブッシュ政権は日本に市場開放と規制緩和をするよう「日米構造協議」を提案(要求?)し、不可逆的な仕組みを飲ませました。もっとも閉鎖的市場として公共事業・土地税制・大店法がやり玉にあがりました。最終的に1990年に10年間で430兆円の市場開放で合意しました。2000年になると、バブル崩壊でガタガタになった金融市場に対して小泉政権による骨太の方針を打ち出し、郵貯民営化を推し進め金融市場を開放し外資導入を可能にしました。
この頃、日本の政界も混乱し、1988年の竹下総理から2000年の森総理までの12年間で総理大臣が10名も変わり、小泉総理になってやっと落ち着きました。アメリカにとって政局が不安定な日本は実に交渉しやすい同盟国だったのではないかと思います。今の風景にダブって見えてきます。
トランプ関税のインパクトは今までと様相が明らかに異なります。戦後の世界基調となった国際協調路線から距離を置いている点です。国際協調路線はグローバリズムを普及させる絶好のプラットフォーム・インフラといえますが、これを踏襲しないと言っているのです。戦後体制を形成した国連及びその関連国際機関、規律ある貿易システムとなるGATT及びWTO、さらに進んだTPP、地球環境保全を推進するパリ協定、欧州安全保障体制のNATO等から脱退又は距離を置いてもっとも有利な立ち位置を再構築する。世界中の国々に関税をかけたり、ドル基軸体制を作ったブレトンウッズ体制も暗号資産通貨に移行させようとしています。
あきらかに従来の世界潮流とは一線を画した世界最強の覇権国MAGAアメリカ確立の政策です。その動機は戦後一貫してアメリカを悩ませてきた貿易赤字と財政赤字です。それを踏まえて私たち中小企業は強みを生かした立ち位置に移行しなければならないでしょう。より世界が求める唯一無二のクールで高品質・適正価格の製品・サービス、例えばアニメや日本文化、大谷翔平の開発です。おそらく、その種は私たちの当たり前の日常の足元に転がっていると思います。