トランプ政権の一挙手一投足に一喜一憂、右往左往するよりも、「愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ」名言の如く、その奥にある本質に迫り、それによる今後の影響に思いをはせて次の対策を取ることが重要です。
以前にも発信しましたが、レーガン政権の時の背景や環境が酷似しています。詳しくは4月9日発信したトランプ関税とスタグフレーション(その1)(その2)をご覧ください。
当時と今ではアメリカ経済の環境や国際政治状況は異なりますが、「双子の赤字」状態であること、中でも財政赤字の規模がけた違いに大きくトランプ政権は断崖絶壁に立った背水の陣の状態にあります。それは1980年のレーガン政権発足時の国家債務9080億$が、第2期トランプ政権発足時では36兆1341億$と40倍にもなっていることからもうかがえます。民間企業の頑張りもあって表面的には平静を装いながら、強気の交渉をせざるを得ない立場ではないかと勝手に心配しています。
歴史に学べば、レーガン政権の時に起きた特徴的な出来事は1985年のドル安定化政策、すなわち円高政策となる「プラザ合意」です。同時に日本の高金利政策とワンセットでした。一時的に安定したドルは2年後の1987年に「ルーブル合意」をしなければならなかったことを考えると想定外の状況になったことがうかがえます。いずれにしても日本はその結果、超円高となり、最終的には1$=80円を割り込むところまで進みました。桁違いのマネーが流入した結果、円高不況で多くの企業が適応できず倒産しましたが、一方で金融と不動産がタッグを組んで日本はバブル景気となりました。今でも覚えていますが、有名証券会社の入社3か月目の新入社員のボーナスが150万円以上だったとニュースになりました。一般企業には全く縁のない話でしたがマネー関係業界や財テクに走った企業は湯水のごとく荒っぽい金遣いをしていました。その結果、1990年に政府の取った総量規制は想定を超える劇薬となり、バブルで異様に高騰した地価は一気に十分の一に下落し、その衝撃は多くの金融機関の破綻と取引先の大きな苦境をもたらしました。
当時の状況を検証した記録が内閣府より「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策研究 オーラル・ヒストリーに見る時代認識」(石川知宏氏、August 2011)として公表されています。また、日経ビジネスの特集「会社とは何か」(2019年2月8日号より)のバブル編も参考になります。
「プラザ合意」後に起きた変化と企業がとった行動はトランプ関税によるインパクトで引き起こされる世界の変化や経済の影響、それによる日本に起きる変化、その変化にどう対応するかを考える上で参考になります。
「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策研究 オーラル・ヒストリーに見る時代認識」から適応して生き残った企業の事例を原文のまま紹介します。
「岡田卓也イオン株式会社名誉会長(歴史編第3巻P17)は、「世の中の道理として『上がったものは必ず下がる、下がったものは必ず上がる』と言った信念を持つことにより、バブル期の地価高騰期にも不動産やゴルフ場など購入せず、小売業として本来の役割である消費者に直接対応するものに限定(卸、製造にも手を広げない)したことが、バブル崩壊の影響を受けなかったのではないか」と述べている。
鈴木敏文株式会社セブン&アイHLDGS 代表取締役会長(歴史編第3巻P57)は、「イトーヨーカ堂は創業当初から不動産や株式投資で資産を増やすという考え方を持たず、本業で利益を上げて成長を図ることを基本方針としてきた。土地の売買で利益を上げることは「邪道」だと考え「ついでに儲ける」というスタンスは採らずに不動産への投資は排除して経営に取り組んできたことが、結果的にバブル崩壊によって土地価格が大幅に下がっても、大きなマイナスの影響を受けずに済んだ」と言う。
矢野博丈株式会社大創産業社長(歴史編第3巻P84)は、「円高・円安の問題は消費者にとって関係ないので経営上の概念にはなく、儲けよう(利益を出そう)などと考えず『倒産以外の価値観を求めるな』という経営理念により売れるか売れないかしか興味がなかった。株やM&A などいろんな商売には振り向かず、自社自身をライバルだと思っていた。また、過去の傾向や成功は捨て去り、日々新しく判断していったことがこのバブル時代を乗り切れたのではないか」と話す。
鈴木与平鈴与株式会社社長(歴史編第3巻P173)は、「経営をやっていると本能的に事業を拡大することにチャレンジしたくなるが、地方(静岡県清水市)で生き社会の変動の中で生きて行くには、適正な規模で舵がききやすい状態にしておいた方が良く、無理な借入れはしないで現に今でも上場はしていない(株価下落の影響はなかった)。このことが、バブル崩壊後でもグループ全体で赤字の会社はほとんど出なかったのではないか」と論じている。更に同氏(歴史編第3巻P66)は、「バブル崩壊後の物が売れない時代を乗り切るには消費者心理を刺激することが重要で、商品を単に1割引、2割引とするよりは5%の消費税分還元セールなど情報に意味を付け出した方が、消費税に抵抗感がある消費者の心理に届きやすくなり商品購入への反響が大きかった。
また、キャッシュバック・セールという値引き分を現金で還元するイベントを実施した際には、2割引するのと2割キャッシュバックするのとでは受け取る側の心理がまるで違い、5000 円の商品を2割引で4000 円支払うより、5000 円払って2割の1000 円分をキャッシュバックした方が、その1000 円で何か他の商品を買いたくなる(割引くよりもらった方が得したと思う)ため、このような心理学的な分析も重要である。」と述べている。