No.1359 ≪トランプ関税とスタグフレーション(その2)≫-2025.4.9

お詫び:昨日お送りしたメルマガ「トランプ関税とスタグフレーション(その1)」の中で日本の関税を「基本関税10%+相互関税25%=35%」と明記しましたが間違っておりました。正しくは「基本関税10%が相互関税25%に引き上げられた」が正しいです。訂正してお詫びいたします。

昨日の(その1)」の続きです。
1980年ごろ、カーター(1924-2024)政権は経済の難病であるスタグフレーション(物価上昇と景気後退が同時に起きる現象)に陥っていました。景気対策で大規模な金融緩和をしたところインフレが発生し、インフレ対策で金利を上げると景気はさらに後退し経済は最悪の状態でした。そこに登場したのがハリウッド俳優だったレーガン(1911-2004)大統領です。「強いアメリカを復活させる」ためレーガノミクスを提唱しました。内容を要約すると「小さな政府で支出を削減し、個人減税で労働意欲を高め購買力を増やし、企業減税で投資促進する。経済は成長し、税収が増えて財政赤字が解消できる。高金利政策を取ればインフレ対策となりスタグフレーションも解消できる。軍事費を増やして強いアメリカを復活させる」ストーリーです。トランプ大統領の掲げるMAGAとよく似ていますね!

レーガノミクスの結果、インフレ対策でFRB金利は18%近くになり、企業の投資意欲は減退しました。高金利で世界中のマネーが流入しドル高・カネ余りとなり、輸出産業が大打撃を受けて景気が後退してしまいました。税収は思うように増えず財政赤字が悪化し、貿易赤字も悪化してしまい、双子の赤字に陥りました。特に対日貿易赤字は深刻で日米貿易摩擦が激化してゆきました。ドル高是正し対日貿易赤字を削減するために、1985年9月22日(現地時間)にニューヨークのプラザホテルで「プラザ合意」(真の目的はアメリカ経済を救うために日本を犠牲にする)がなされ、G5同盟国の協調介入でドル安・円高を実現しました。協議時間はたった20分。日本の政権内でも一部の人しか知らない隠密裏での合意でした。日本の第二の敗戦と言われたゆえんです。

プラザ合意後の日本は急激な円高となり不況となりました。合意前の9月21日の為替は1$=242円、12月末には200円、1年後には153円、1987年12月には122円、ついに1994年6月に円は1$=98.95円となり100円を割り込みました。その結果、世界中のマネーが日本に流入し、余ったマネーは土地や有価証券に流れ込み、土地高、株高による資産価値の高騰はバブルを引き起こしました。バブルはさらなる円高を呼び寄せ、それがバブルに勢いを与えました。輸出企業の業績は低迷し、その対策でモノづくり企業は生産拠点をアジア中心に海外移転したため国内は産業空洞化が進みました。内需拡大が市場テーマとなり、土地も人件費も物価も高騰し空前のバブル景気が続きます。アウトバウンドに力を入れ始めたのもこのころです。東京は世界で最も物価が高い都市となり、地方都市にも波及しました。
バブルの頃に経営コンサルタントになった私は、「財テク」巧者が良い経営者と言われ、経営者が寄るとさわると「財テク」の話ばかりでした。10年後に地獄を見るとは夢にも思わず。

バブル真っ最中の1989年に沖縄に赴任した私は、支援先の不動産デベロッパーの社長が沖縄のリゾート地「恩納村」の土地取引を電話で交渉する場面に居合わせ、地価が分刻みに万円単位で値上がりするバブルのすさまじさを目の当たりにしました。大都市を中心に強引な地上げが社会問題となり、その対策として1990年3月に大蔵省が金融機関に対する総量規制を行政指導しました。その結果、一気に地価が暴落し、不良債権が膨らみ、1995年から始まった金融機関の破綻ドミノでバブルが崩壊し、多くの上場企業を始め企業が淘汰されてゆきました。沖縄サミットが開催された2000年は負債総額が23兆円にもなりました。開発投資計画はすべて中止され、失われた30年が始待ったのです。

さて、トランプ大統領の経済ブレーンは第一期と同じ3人と言われています。一人目は「高関税」「ドル高是正派」のスティーブン・ミラン氏、二人目は「法人税減税派」のケビン・ハセット氏、三人目は「高関税」「鉄鋼、アルミへ25%関税」提唱のピーター・ナバロ氏です。3名のブレーンが第1期の教訓を踏まえて今回の政策を立案したと思います。
レーガノミクスと合わせて考えるとある程度のインスピレーションを持つことができます。「双子の赤字」を解決する方法は、シンプルに考えれば「輸入を減らし、輸出を増やすことで貿易赤字を削減し、支出を減らすことで財政赤字を削減する」こと。交渉手段として通貨対策と安全保障対策は不可欠ですから、プラザ合意のような「取引」が出てくると思います。レーガノミクスとMAGAの違いは、ソ連が崩壊してアメリカ一強体制であること、アメリカが育ててきた中国が最大の脅威になっていることです。本来なら通貨対策の主ターゲットは中国ですが、まずは関税104%の報復合戦で腹の探り合いをして、先に日本をターゲットにプラザ合意のような「マルアラーゴ合意」することで「同盟国でさえ妥協しない。次は中国だぞ」と強気の交渉をする。落としどころは1$=100円=1ユーロ=4元当たりではないかと想像しています。
ロシアへのSWIFTによる経済制裁はザル制裁なので、いずれ香港でのCIPS制裁をカードに使い交渉するのではないかと言われています。

日本がスタグフレーションに陥らないためには、トランプ関税による一時的な景気悪化というピンチを、成長起爆剤に変える発想が必要です。トランプ・インパクトという外圧を最大限利用して、全国の高速道路・一般道路・上下水道・橋梁・電気・通信の地中埋設化等のインフラ、中でも都市部のインフラの次の100年に向けたリニューアルを令和版「列島改造2.0」構想を提唱するのです。財源は建設国債で賄えばよいのではないでしょうか? 

では年商100億円未満の中小企業はどうするか。コストダウン要求の嵐がやってきます。量産によるコストダウンを目指すには大規模な設備投資が必要で、これは大企業に任せて中小企業は身の丈に合った投資で対応すべきです。そこで次の8案を提案します。(1)人材の能力を存分に引き出し、アントレプレナーを創造する人事制度の制定、(2)関税に負けない世界トップシェアを取れる製品開発、(3)アウトソーシングによる生産性イノベーションの実現、(4)1年分の固定費相当の資金手当、(5)クラウドファウンディング及び増資による財務体質の強化、(6)AI&DXによる省人化の推進、(7)関税をものともしない付加価値の高いやサービスの開発、(8)その商品やサービスで海外進出する。
昔の人はえらかったですね、「来るぞ台風、備えは良いか」「備えあれば憂いなし」の教えに近づけるように私も行動してまいります。