昨夜のニュース速報「日本製鉄が中国宝山鋼鉄との合弁を解消。事業から撤退」に驚くとともに「やはり」と思いました。今日はその中国関連の話題を提供いたします。
ある方に一読を勧められたのが、表題にあるラルフ・タウンゼント氏(1900-1976)の処女作「中国大陸暗黒の真実」(芙容書房出版)の2020年新装版です。原書は1933年に出版されました。アメリカ人であるタウンゼント氏はコロンビア大学卒業後国務省に入省し、満州事変の起きた1931年から2年間外交官として上海副領事、福建省福州領事を務め、帰国後に中国で経験した中国人および中国政府(当時は蒋介石率いる南京中央政府があったとは言うものの国全体としては無政府状態)に翻弄され、アメリカ人を救済するために苦い体験を踏まえ出版されました。外交官として中国駐在体験から、現場で本当の中国を熟知している観点から中国の官僚及び政府の偽善に満ちた行為とそれに忍耐する日本人および日本の真実が描かれています。1930年代初頭は共産主義が世界中に蔓延する時期に当たり、アメリカでも例外ではなく、上海事変や満州事変に関する現地の誤った情報(主に駐在宣教師による忖度情報)で対日強硬論が主流でしたが「(中国は)アメリカ人の手におえる国ではない。日本の存在がアジアの共産化を食い止めているのだから、戦争に介入すべきでない」と主張します。日本の置かれた背景を知り正しい判断をすれば日米戦争は起きないと喝破。それは好戦的なルーズベルト政権批判と受け取られ、真珠湾攻撃後にはスパイ容疑で約1年間投獄されてしまいました。タウンゼント氏の著作は1997年、2001年、2004年にも日本語版で発刊されていますが昨今の国際環境を鑑み、新装版として2020年に刊行されたのです。
タウンゼント氏は今から約90年前の中国の現状をリポートしておられます。一部かいつまんで転載します。詳しくは著作をお求めになって読んでみてください。本質はほとんど変わっていないことがわかります。
「中国人は洗濯好きで水撒きが好きだが、一番汚い民族である。無類の怠け者であるが働き者である。共同で仕事をすると信頼できない曲者である。しかし、義務を果たそうと驚くほどの犠牲心を発揮する。(中略)こういう相反する特徴は文字で読んでも理解できない」
「あるアメリカ水兵が夜遅くに沖合に停泊している軍艦に帰船しようと渡し船に乗り、料金を払って降りようとすると、船頭が『もっと払え』と迫って水兵に抱き着いてきた。振り払った勢いで船頭は海に落ちた。水兵は海に飛び込んで彼を助けて彼の渡し船に上げた。すると船頭は(金を払わなかった腹いせか)オールで水兵の頭を殴打し逃げた。水兵は溺死した」恩を仇で返される。
「中国の代官が住民を脅迫し、ごまかし、搾取していた。ある金持ちを資産隠しの容疑で逮捕し、両手の親指を縛ってつるし上げた。役人相手では勝ち目がないので家族は親戚一同を回り、金を集め釈放してもらった。それを見て金持ちは震えあがり大金をはたいて免罪符を買い求め、この代官は新任地で優雅な生活を送っている」
「(ある新聞記者は)中国人の裁判にかかったら最後、まともな裁きを絶対に期待できないと皆異口同音に話している。債務不履行になり売り上げを横領され、運悪く規格外れのいい加減な商品が届けられたと裁判所に訴えて損害賠償を要求するより、流れ弾に当たった、運が悪かったと諦め黙っていた方が安上がりだ」
賄賂をとる人の上前をはねるのは上級役人ですが、彼らはいつ何時粛清されるかわからないので稼げるだけ稼ぐ。当時の中国には「嘘」「嘘つき」という言葉がなかったとタウンゼント氏はいう。家族以外のだれも信用できない国で起きている出来事を実にたくさん紹介しておられます。しかも、伝聞ではなくすべて自分の体験やインタビューに基づくものです。
このような激動の中国で「ある日本人夫妻の事件」が発生しました。
「当時の中国は略奪が目的の秘密結社が多数あり、福州でも同様だった。何の落ち度もないある教師夫妻が標的にされ殺人予告を受け脅迫されていた。要請を受けた日本総領事は外交上の儀礼を重んじて福州当局に警備を要請した。要請を受けて中国兵が配備され24時間警備にあたったが、数日後中国兵が突然消えた。そして夫妻は略奪され殺害された。明らかに秘密結社と中国兵がぐるになっているとしか考えられなかった。
怒り心頭の田村総領事は当局役人を呼びこう通告した。『双方の同意に基づいた警備に落ち度があったから、今回の事件が起きた。この重大な過失に対してご遺族に5万ドル(現在価値で2.5億円)賠償願いたい』
中国側は例によって例のごとくのらりくらりとまともな返答をしない。そこで田村総領事は『よろしい。これ以上申し上げることはない。あとはそちらのご判断次第です。一言申し添えるが、当方がすでにことの詳細を海軍に打電し、軍艦数隻がこちらに向かっている。熟慮のほど重ねてお願い申し上げる』と言って席を立とうする田村総領事に(艦砲射撃を食らったのでは元も子もないと思ったのか)『局に持ち帰って相談してみます』という。
『5万ドル耳をそろえて持ってくるまでは面会無用です』と席を立った。翌朝、現金を持ってきた。」
タウンゼント氏いわく、「中国人には田村式が一番である。実に丁寧で公平である」この一件があって以来福州では反日行動がピタッと止み、日本人は最高の扱いを受け、最も尊敬される外国人になった。しばらくして田村総領事はシンガポール総領事に転任となり、当局の役人だけでなく市民も盛大な送別会を開いてくれた。毅然とした態度が尊敬を集めたのです。
私事ですが、顧問先の要請で1997年以来南京、上海を中心に訪中していました。その頃は親の仇を見るような厳しい射るような目で外国人である私たちを見ていましたが、WTO加盟を果たした2002年頃はそのまなざしも少し和らぎ、完全に変わったと実感したのは2008年の北京オリンピック開催でもなく、2010年の上海万博開催でもなく、GDPで日本に追いついた時でもなく、2016年に有人宇宙船打ち上げ成功の時でした。行き交う人々は、まるで日本人は眼中にないぐらい自信に満ち溢れ優越感に浸っていました。ややもすれば「お前たちにはできないだろう」という居丈高な目もありました。力関係が逆転した時の豹変に驚きました。
事例はほんの一部を抜粋しただけですが、単なる中国批判の本ではありません。中国という国、中国人という民族、文化、歴史、習慣が5000年の間にどのような経緯をたどっているのか(ほとんど変わっていないのですが)、興味関心持って知ることの重要性を語っています。不関与という決断も戦略的判断であることを示しています。
また、最近の中国事情については以前に報告したようにマイケル・ピルズベリー氏の100年マラソンを喝破した「CHINA2049」(日経BP刊)が詳しいです。驚くほど、変わっていないことがわかります。
私たちはこのような知見を踏まえたうえで、海外ビジネスを展開しなければなりません。