No.1321 ≪ジョブ型とメンバーシップ型≫-2024.7.17

先週の続きでジョブ型とメンバーシップ型についてお伝えしようと思いますが、その前に今日は7月17日で、日本三大祭りの一つ、京都・祇園祭。少しふれておきたいと思います。

17日午前中は夜に行われる神輿渡御の露払いとして八坂神社に神様をお迎えゆく神幸祭「山鉾巡行」(前祭:さきまつり)があります。そして夜になると八坂神社におわす神様は神輿に乗り「御旅所」に渡御されます。洛中で1週間過ごされた神様は八坂神社に戻られるにあたり、今度はお送りする還幸祭「山鉾巡行」(後祭:あとまつり)があります。その夜に神様は神輿にのり八坂神社に渡御され神事は締めくくられます。

そもそも祇園祭の発端は疫病退散の厄払いです。桓武天皇の平安京遷都(794年)以降70年間で富士山噴火、旱魃、京都大地震、伊豆地震、出羽地震、越中越後地震、播磨地震、三陸沖地震・大津波など悪い出来事が次々と起こりました。天災地変は怨霊の災いとされその都度天皇は7名、元号は10回変わりました。
824年に日本中がひどい旱魃に襲われた際に、淳和天皇の勅命により空海が天皇家の庭「神泉苑」の池畔にて祈り、北インドの「善女龍王」を勧請したところ、日本国中に雨が降り人民が大いに喜びました。その後疫病流行が続き、怨霊鎮魂のため、869年に全国66国を表す矛を神輿に立てて「神泉苑」から八坂社に送りスサノヲノミコトご一家を勧請する神事を始めました。その名残が今の祇園祭の山鉾巡行に残っています。京の町衆は「怨霊」を「御霊」と読み替えのプラスパワーに転換したのです。
また、祇園祭が終わると梅雨が明けると言われています。日本の伝統をこれからも永遠に継続してゆきたいものです。

さて、働き方改革の目玉ともいえる雇用形態「ジョブ型」と「メンバーシップ型」について研究します。
2019年に施行された働き方改革関連法案の実施により、罰則のある厳しい残業規制、法定有給の強制消化、同一労働同一賃金が要求され、これに対応するために雇用制度や賃金体系や人事評価制度の見直しおこなわれ、2024年4月から全産業ベースで適用されるようになりました。その中で雇用形態として「ジョブ型」「メンバーシップ型」が注目されています。

ジョブ型は欧米で主流の「仕事に対して人を割り当てる」雇用形態で職務や勤務地、ポジション、勤務時間があらかじめ「職務記述書」により定められており、仕事の内容は限定的で、専門性を必要とします。給与は「職務給」、いわゆる年俸になります。ここには年功序列は一切存在しません。同じ職務ならば新入社員も勤続30年のベテランも同一賃金です。記述する職務内容がある程度のキャリアを踏まえないと遂行できないレベルにすれば中途採用か年功序列にならざるを得ません。どのような会社にするのか、経営者の決断が必要です。定型業務ならばAI電話応答や自動化やロボットで事足ります。

話は変わりますが、製造業の経理は工業簿記を使用します。工業簿記における原価計算で三大製造原価は労務費、材料費、経費です。これらの原価はそれぞれ直接労務費・間接労務費、直接材料費・間接材料費、直接経費・間接経費に分かれ、同時に変動労務費・固定労務費、変動材料費・固定材料費、変動経費・固定経費にも分かれます。

おかしいと思いませんか? 「変動労務費」って何? 一般的には人材派遣手数料を思い浮かべますが、これは費用ですので経費になりますね。自社の従業員が変動費と固定費に分かれるのです。なぜか? この原価計算の考え方はアメリカ式を日本の工業簿記が取り入れているからです。アメリカ式では仕事の増減によって人も変動させるのが正しい経営なのでレイオフや解雇が頻繁に行われています。日本では解雇権は厳しく制限されています。アメリカ式の良い点を日本流にアレンジして利用しないととんでもない間違いを犯してしまいます。

一方メンバーシップ型は「先に人を採用してから仕事を割り振る」雇用形態で仕事内容や勤務地、勤務時間などを限定せず、会社にマッチする人を採用し、本人の適性や能力、環境に応じて異動や転勤、残業を命じるやり方です。給与は「職能給」になります。これは、一定の期間は場数やキャリアを踏まないとできない場合がありますので、その期間は年功序列要素が残ります。中小企業では少数精鋭で多能工がベースとなりますので、最低でも前後左右の業務を相互にカバーしあえる状態にしなければ回りません。ジョブ型のように業務を隙間なく細分化すると人数が多くいる割には業務量とコストがバランスしないため非効率です。

巷間、ジョブ型がもてはやされて転職する人も多いようですが、ジョブ型は「職務記述書」に記載された業務以外をやってはいけないので、日本のように顧客第一、臨機応変を優先する文化がある企業の場合は誰かが対応せざるを得ませんので、カバーさせられた社員から不満が噴出します。また、「職務記述書」の認識違いで能力が劣る場合は、欧米ならレイオフしたり解雇したりできるでしょうが、日本では悪意のある就業規則違反を何度も繰り返さない限りほぼ不可能です。30日前の予告解雇は可能ですが、相応の理由がないと認められません。毎年更新型の年俸制でも3か月前予告が必要ですし、場合によっては「話が違う」と損害賠償訴訟を起こされることも少なくありません。

いずれにしても、役所は表面的な制度だけ整えた後は企業に丸投げするのが常態化しています。運悪く臨検に遭遇すれば「悪法も法」ですので対応するしかありません。社員のモチベーションを高めつつ、法律は遵守しながら、社員に不満を抱かせない自社流を貫くことが必要な時代だと思います。