2008年9月8日のリーマンショック以降、「(いま)そこにある危機」というタイトルで数年毎に発信しています。その都度、着眼点は異なりますが、今回も発信しなければなりません。
1945年9月2日の敗戦以来、日本は「安全保障」と「エネルギー調達」と「食料調達」の3つの海外依存、もっと言えばアメリカ依存を前提に進めてきました。占領下に制定された現憲法を固守してきた意味では4つの依存ともいえますね。1952年9月7日のサンフランシスコ平和条約受諾宣言によって主権回復しましたが、その後も4つの依存を現在まで継続しています。
おかげさまで紛争も内戦もない平和な日本を作り上げることができました。一方で依存による深刻な問題も顕在化しています。生産年齢人口の割合は1980年代の70%をピークに59.4%(2023年2月)と漸減し、少子高齢化の上昇トレンドは確実な未来となり、高度成長、所得倍増は夢のまた夢で実質賃金の減少に歯止めがかかりません。日銀は金利を上げられないし、GDP成長率が伸びないので円安はますます進行します。
「倫理的に多少だらしない」「抜本改革よりも解釈と運用で対応するのが得意」な中道保守政権は「革新派から保守派迄の幅広い議員がいる」という安心感から地位が揺らぐことはないでしょう。お灸をすえるかもしれませんが、すぐに許して消極的選択はしばらく続きます。今のように政治不信がひどくなればなるほど行動するより権利放棄する無党派層が増え投票率が漸減することが皮肉にも現状維持の推進力になるからです。
不満のマグマが民意を動かすのはいつなのか。そろそろ、4つの依存体質から脱却して本当の意味での主権回復に向けたイノベーションが必要だと思います。
海外に目を向けると、「今そこにある危機」が気になります。保守派と革新派の分断により中道派が揺らいでいるように思います。6月9日に投票が終わった27か国が参加した欧州議会選挙の結果は、保守勢力の躍進が注目されています。世界調和より自国優先の勢力です。欧州議会は720議席を国別ではなく会派別が競い合います。
非主流の保守勢力の躍進はウクライナ戦略や難民政策や安全保障戦略等に影響を与え、合意形成に時間がかかると思います。100年前の欧州に戻るきっかけにならないようにしていただきたいものです。
歴史のおさらいです。第一次世界大戦に敗戦したドイツ帝国は1919年に崩壊し、ワイマール共和国が誕生しました。ベルサイユ講和条約で約13%の領土と700万人の国民を周辺国に奪われ、課された賠償金は1320億マルク(約300兆円:2024年の為替換算)と天文学的数字で経済はひどい状態で失業率は10%以上(約700万人)、物価はとてつもないハイパーインフレが起きました。1$=4兆2105億マルクに相当したそうです。政治は混乱し、40以上の政党が乱立し離合集散を繰り返し一向に問題解決ができない。そのころ台頭してきたのがナチス党で、軍は諜報員を潜入させ情報収集にあたりました。送り込まれた諜報員がヒトラーでした。彼は、オーストリア生まれの元美術学生で才能に恵まれず水彩画の絵ハガキを打って生活してしたのですが、第一次世界大戦が始まると志願兵として入隊し、戦後は諜報員として配属されていました。その潜入諜報員がナチス党の党首になったのです。クーデターを起こして逮捕されますが、ナチス党は選挙で連勝し、倍々の勢いで躍進しついに議会第1党になり、1933年にヒトラー首相を首班とする内閣が誕生しました。合法的に全権委任を受けたヒトラーは95%以上の高い支持率を得て、次々と課題を解決します。約700万人の失業者対策として高速道路アウトバーン建設を進め、国民車フォルクスワーゲンを誰もが買えるように大量生産し、奪われた領土を次々と併合していったのです。国内の混乱を鎮静化し、経済運営を正常化し、国力を高めていったのです。次第に変質し独裁化することでその後の結末はご存じの通りです。
もう一つの危機は難民です。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の調査によると2023年現在の難民は約1億1400万人となり、コロナパンデミック前の約2019年の8000万人と比較すると42.5%も急増しています。2019年の国別難民数上位はシリア(660万人)、ベネズエラ(360万人)、アフガニスタン(270万人)、南スーダン(220万人)の上位5か国で約19%を占めます。その後、急増したのはコンゴ(715万人)、ブルンジ(60万人)等のアフリカ大陸の政情不安によるものです。また国を持たない民族ではロヒンギャ族(100万人)、クルド族などが難民化していると言われます。当然、難民はより安全な国、つまり欧米へ職を求めて老若男女が徒歩で3000kmは普通に移動すると言われますので、良い意味でも悪い意味でも大抵の事には動じない経験をしている方々です。先進国の難民政策は議論が分かれるところです。
もう一つの危機はアメリカです。なんといっても最大の注目はアメリカ大統領選挙です。
アメリカの分断が進み平気で「内戦ぼっ発」を唱える方が増えつつあるように思います。11月のアメリカ大統領選でトランプ氏が再選されれば国内はもとより、世界中に激震が走ります。中でもヨーロッパと日本は顕著なインパクト受けます。欧州議会選挙がその前哨戦になっているようにも見えます。軍事力を激増させ100年マラソンで2049年までにアメリカと肩を並べようと目論む中国にトランプ氏は集中すると巷間言われています。ヨーロッパや中東から手を引く、つまりNATOから手を引いて中国シフトする。最大の同盟国日本にも軍事力増強の前倒しと中国との旗幟を鮮明にすることを求める。パワーバランスが100年前の欧州、100年前のアジアに逆行して混乱が現実化するかもしれません。故安倍総理不在の日本の行く末は危機がいっぱいありそうです。
政治は基本的に対外的には主権の確立と国益優先、対内的には不満を持つ民意の解消です。より豊かに幸せにしてくれそうな政治家・政党が選ばれます。民意・国益優先→国内外の利害対立により分断激化→戦争→厭戦→調和・安定→格差拡大→民意・国益優先と循環しています。そうならないように政治家は頑張っていただきたいものです。
日本の危機、即ち4つの依存については次週もお届けしたいと思いますが、さわりだけご覧ください。お忙しい方は読み飛ばしてください。
皆さんもご存じのように、資源エネルギー庁「2022年版日本のエネルギー」によると日本の1次エネルギーの海外依存度は88.2%。1次エネルギー構成比をみると石炭25.1%、石油39%、天然ガス23.4%、その他12.5%です。石油は9割を中東から輸入しています。ですから、中東の変化は日本に直結します。さらに1次エネルギーの46%を使って発電しています。電気がなければ何もできない現在において、私たちの生命線は中東、中でもサウジアラビア、UAE、クウェート、カタール等に握られているともいえます。
太陽光をマイクロ波に変換して無線で地上に送電するSSPS(宇宙太陽光発電システム)をご存じですか?
1968年にアメリカのグレーザー博士が提唱し、京都大学篠原教授を始めJAXAのプロジェクトになっています。今や日本はこの分野においてはダントツトップの位置にいます。エネルギーのほとんどを海外輸入に依存する日本が最も注力すべき国家プロジェクトです。そのためにはどうしてもロケット打上技術が不可欠です。さらには有人飛行や宇宙ステーション建設技術が必要となります。残念ながらこの技術は今や北朝鮮にも追い抜かれている現状をどうとらえるか。「2番じゃダメなんですか?」という発想がある限り難しいかもしれません。宇宙発電所1基で原発1基に相当します。しかも放射能は発生しません。
この技術の延長線上に核技術があります。日本で稼働中の原発は42基で、アメリカ、フランスに次いで世界3位です。原料と技術があれば核兵器は製造できます。問題は武器化するにはロケット打上技術が不可欠です。これができれば安全保障の海外依存は大幅に減少します。法整備は大変でしょうが。
4つの依存に対して根本的な改革を進める時期に来ていることを痛感しています。私たち中小企業経営者は何ができるか考えてみようではありませんか。