No.1275 ≪事業承継の進め方≫-2023.8.23

先週の「台風について」の追加で、既にご存じの方も多いと思いますが、おすすめのアプリを紹介します。
一つは「NHKニュース防災」アプリ。NHKニュースの時に画面右上にでるQRコードから簡単にダウンロードしてインストールできます。中でもマップはハザードマップ(洪水・土砂災害)、雨雲マップ、河川情報等は優れものです。もう一つは気象庁提供の「キキクル」です。気象庁のホームページからダウンロードしてインストールできます。「キキクル」は現在進行中の災害の浸水、土砂、河川の最新情報を入手できます。この2つのアプリを使えば異常気象がニューノーマルになった日本での予防対処が少しは可能になります。以上前週の追加情報でした。

さて、今週のテーマは事業承継です。上場企業の場合は定期的に社長交代することが慣例化していますが、中小企業の場合は同族継承が多いため、社長が「やめる」と言わない限り、計画的に事業承継準備に入ることが難しいです。創業経営者の場合はこの傾向がさらに強まります。代を重ねるにしたがって、ある一定の不文律が出来上がり、3代目以降は株主や取締役から承継計画が話題に上り環境が整備されてゆくことが多いです。
とはいうものの、健康に自信があり、会社の業績も順調に推移していると不文律があってもなかなか話題にできないこともあるでしょう。

還暦を過ぎたころ、又は肉体的変調を自覚した時、あるいは人間ドックの再検査でがん宣告を受けた時などが承継を具体的に意識するきっかけになります。
万人必ず迎える「死」は自死か安楽死以外は計画することも予測することもできません。いわゆる「Xデー」です。何の準備もなく訪れた突然の「Xデー」の場合、経営的には残された株主、取締役、幹部、金融機関が一団となって対処し乗り越えるだけです。その時の財務状況や社内環境にもよりますがそれほど多くの選択肢がありませんから比較的容易に乗り越えられます。個人では法人以外の相続問題もあり、遺族や親族の思いも含めて多少時間が掛かるかもわかりませんが、落ち着くところに落ちついて、なるようにしかならないでしょう。争続の始まりにならないように、最低限のこと、例えば、公証人役場で遺言証書作成等は事前に済ませておくべきです。生きている間は何度でも修正できるのですから、これは中小企業経営者の最低限の義務だと言えます。

問題は「Xデー」以外の承継準備です。
まず、後継者選びが最大の問題です。お子さん又はお孫さんがおられれば最高ですが、相続してくれる意思があるとは限りませんし、たとえあったとしても経営者としての資質や適性があるとは限りません。候補者が多数の場合は、誰を入社させるかを決めねばなりませんが、基本的には入社させるのは一人です。また、予定していた方が事故や病気で早逝される場合もあります。実子の可能性がなくなれば親族継承になります。
親子継承の場合、経営のバトンを渡す側(親:現社長)と受け取る側(子:後継社長)の関係は、「親は子が入社してくれただけで感謝し、子は産んでくれただけで親を尊敬する」ことです。双方ともそれ以上を望むのは贅沢だと思います。

後継者が決まると、「Yデー(承継日)」に向けての準備に入ります。具体的には株式の相続です。会社は資本の論理で動いていますので、最終的には実質キーマンは最大株主&取締役です。株式を移動することで継承が動き出します。後継者である新社長は株式比率の裏付けが権限の根源ですから最大株主となるように株式移転が必要です。そのためには後継社長が相続税を支払える程度に株価を下げないといけません。それは、現社長の退職金が一番合法的で有効な対策です。退任年度(Y年)の株主総会で最終月給を高める総会議事録が必要です。

一般的に退職慰労金 の計算式は「(最終月給×勤続年数×功労倍率)×特別功労割合」ですので、例えば、内部留保が10億円、資本金5000万円、額面5万円・株数1000株の会社の場合、株価は約100万円。後継社長が50%の株式を持つには5億円が必要になります。しかし、現社長の最終月給を400万円と決議した場合、40年勤続、労倍率4倍、特別功労割合30%とすると、退職慰労金は約8.3億円となり株価は約17万円。50%株式買取額は8500万円で済みます。「Y年」を決断すれば、経営者の退職慰労金だけでなく他の取締役及び幹部社員の退職金を考慮すればもっと有利な株式の移動が合法的に可能になります。

そして、ブレーンの育成です。現社長のブレーン(旧ブレーンと仮称します)と後継者のブレーン(新ブレーンと仮称します)は世代の違いもありますので基本的には異なります。社風や文化や価値観に基づく経営方針の継続性の観点から旧ブレーンが期限付きで留任する場合もありますが、大半は新ブレーンに世代交代します。現社長は通常は会長職になり大所高所からの社業の発展に寄与されますが、ある時点で社内での影響力を意図的に低下させることになります。その決断は会長しかできませんが、その時は旧ブレーンも引き連れて退任することになります。これは会長の最後の経営責任と言えます。次にブレーンは最低でも知・情・意の3タイプが必要です。知識や理論や企画に優れた「知」のブレーン、人情や人間性や人使いにたけた「情」のブレーン、強い意志力・行動力をもった「意」のブレーンの3タイプです。それぞれの3タイプの専門素養は技術、マーケティング、財務、労務、法務、システムのいずれか又は複数のキャリアを持っていることが理想です。

もし、親族内後継者が不在の場合、ブレーンへの一時的な継承も必要です。そのために、ブレーンには社内外共に「社長名代」の役割を日ごろから経験させる必要があります。人は変わります。場数を踏めば踏むほど成長しますし、素直で誠実であればあるほどそのスピードは速くなります。適性も併せてみることができます。

親族後継者、社内ブレーンも難しい場合は、スカウトやM&Aがあります。スカウトは日頃から仕事を離れて交流を重ねておかねばなりません。もちろんスカウトの意図は伝えてはいけません。本当の人間性が見えませんので。これも難しい場合は、ビジネスライクにM&A企業への登録が良いでしょう。M&A企業は無数にありますが、最も良いのは金融機関、信頼できる方の紹介、弁護士や税理士の紹介等が良いでしょう。

公正証書の作成や後継者選びやブレーン育成のような打てる手は先手先行で着実に打ってゆき、「Xデー」のように想定外の事まで計画しないことです。綿密に計画したつもりでもその通りになることは万に一つもありません。