2022年もあと約2週間で2023年へ「希望のたすき」を渡します。1年のけじめをつける良い時機です。
会社では、年末の仕事納めには1年の無事と繁栄に感謝して、頑張ってくれたモノたちの大掃除をすることが多いと思います。モノは生きています。感謝をして心を込めて扱ってやると喜んでもっと働いてくれます。しかし、道具をただの無機物、心なんてあるわけがないと思っている方には、肝心な時に故障したり、場合によっては道具でケガをしたり、事故を起こしたりします。そういう方の道具の扱いは乱暴で不潔で我儘で、汚れ放題、ゴミだらけ、壊れたら買い替えるだけではないでしょうか。私たち日本人は「八百万の神々」の子孫であり、森羅万象のあらゆるもの、風や火や水や石ころや草木などにも神が宿ると信じてきた民族です。物は生きている。しかも、モノには神が宿るのです。神は清潔で清浄を好みます。これからの季節はモノたちへのいたわりと感謝の絶好の機会です。
清潔で清浄な状態を保つには掃除が一番です。掃除と言えば鍵山秀三郎師です。一度でも全国各地で開催されている「日本掃除に学ぶ会」の例会に参加された方は、ご存じだと思いますが、「なんと、ここまでやるか!」と感動されたことと思います。神が宿るのですから当たり前と言えば当たり前です。その徹底ぶりの一部をご紹介します。
例会では、事務局の方々の前準備、道具の準備、会の進行、掃除の指導、道具の後片付け、振り返り、懇親会まで徹底しています。掃除場所が決まれば、当日の指導に当たる各社のリーダーが事前に集まって現場確認の上、当日スムーズな運営ができるよう研修を行います。例会当日は、使用する道具が並べられ、それぞれの持ち場に移動して、道具の使い方、注意事項、掃除手順の説明があり、2時間以内で終了するように指導します。基本的には素手で行います。感染症にならないように手にクリームで防護し、怪我に細心の注意を払いながら、いろんな道具を使って汚れに汚れた便器はもちろんのこと床、壁、ドア、天井、蛍光灯、換気扇、側溝まで掃除をします。便器の琺瑯を傷付けないために洗剤や道具も決まっています。金ブラシでごしごしやれば簡単に汚れは落ちるのですが、表面は傷だらけになります。この傷に菌が付着し、汚れは倍化します。だから、琺瑯を傷付けない洗剤と道具を使ってやさしく根気よく汚れを落とすのです。
まず一つの汚れを落とすと次の汚れが気になります。その汚れを根気よく落としてゆきます。すると、また次の汚れが目立ちます。こうして次々に落としてゆくと、あっという間に終了時間になってしまいます。「もっとやりたい」と頑張る人もいるのですが、「掃除をする会」ではなく「掃除に学ぶ会」ですので、時間厳守は絶対です。一所懸命磨いた便器が愛しくて仕方がありません。1チームあたり1か所を担当するので、男子便所だと大便器と小便器がありますので4〜6個ありますが、女子便所だと多くて3個ぐらいしかありません。ひとつの便器に一人が担当します。最初はいやいややっていた人が次第に集中して取り組んでいます。終了時間を予告してもなかなか手を緩める気配がありません。不思議ですね、あんなに嫌がっていたのに。リピートの方は感動をもう一度味わいたいと便器を希望するのですが、初参加の方が優先されるため、壁や床を担当することになります。壁や床では感動がないかと言えばそうではありません。ここでも、ひとつ汚れを落とすと次の汚れが気になり、次々と汚れを落とすと同じような感動を味わうことに気づきます。建具を分解して隅々のさびや汚れを落としてゆきます。
時間を見計らってリーダーが後片付けを指示します。便器や床、壁、窓、天井についた水滴を雑巾で丁寧に拭いてゆきます。汚れた雑巾は、3つに並んだバケツで順番に洗ってゆきます。最初のバケツはひどい汚れを落とし、2番目のバケツでさらに汚れを落とし、3番目のバケツで雑巾をすすぎます。3番目のバケツはほとんど汚れはありません。1番目のバケツの水を入れ替えると、2番目を1番に、3番を2番にと順に繰り延べ、1番目のバケツに新しく水を入れて3番目に持ってきます。水を無駄にしないで有効に利用するためです。自分たちが担当したトイレをみるとなんと「光り輝いている」ではありませんか!「きれいにしてくれてありがとう」とお礼を言っている声が聞こえそうです。そうなんです! モノは生きていて、本来は光り輝いているのです。「掃除をする」のではなく「させていただく」、「汚れを落とす」のではなく、「落とさせていただく」ことに気づきます。
便器だけが生きているのではなく、便器の汚れを落とす道具もまた生きています。使った道具に感謝してきれいに汚れをぬぐって元通りに並べてゆきます。
振り返りでは、皆が何か気づいたのでしょう、感動しているのがわかります。「これからは汚さないように大切に感謝して使います。帰ったら家のトイレも掃除したい」と涙ぐむ人もいます。神様はきっと大喜びされていると思います。
翻って、会社で言えば、生産設備、治具工具、社用車、建物・建具・家具、社員、商品、製品も同じだと気づきます。みんな、磨いて磨いて磨きぬくともともと持っている光が燦然と輝くのです。そして、もっと役に立ちたいと語りかけてくるのです。実はこれ、モノを通じて自分を磨いていることになると思いませんか。