No.1205 ≪スタグフレーションの悪夢再来か?≫-2022.3.30

2021年はコロナ禍の影響で、世界中が感染症対策の一環でベーシックインカム等の膨大なコロナ対策費を計上し、さらに大胆な金融緩和を行っています。金額にして13.9兆$(1529兆円 110円/$換算)です。人流抑制することで人の移動が激減し、購買はネット通販にシフトし、実体経済はいびつな形になりました。世界中の国々が水際対策で外国人の入国を禁止しました。外国人労働者に依存していた工場は操業に支障をきたし、さらに国内感染者が増えたために従業員も出勤できない状態となり、工場閉鎖が相次ぎ、サプライチェーンに支障をきたしました。たとえ、生産できてもトラック運転手がいない。港湾荷役作業員がいない。海運の乗組員が集まらない。動かせる船が限られる。運賃は最大10倍近くに跳ね上がり、納期は大幅に遅れ、いつになるかわからない状態が続きました。これに連動して様々なモノが値上がりし、お金は潤沢なのに商品がない状態となり、インフレ傾向になりました。給与を上げないと人を採用できなくなり、給料もどんどん上がってゆきました。日本以外の先進国で起きた現象です。

しかるに日本は逆に給料は上がらず物価は下がってゆきました。「世界はインフレ、日本はデフレ」状態だったのです。しかし、2021年夏以降は次第にサプライチェーン障害から、価格よりも商品供給を優先するようになり、サプライヤーは遠慮しながらも値上げ機運が高まりました。2022年に入ると、軒並み強気で価格改定が進みました。まず、エネルギーの高騰から始まりました。決定的に変わったのは2月24日のロシアのウクライナ侵攻がきっかけだと思います。いまは、遠慮することなく、強気で価格改定する企業が増え、その上げ幅も20%〜50%、ものによっては4倍近いものまで出てきました。そのもっとも象徴的なものに電力があります。2016年から新電力が登場し、より安い電力を求めて購入先を変えてゆく顧客が増えましたが、ここにきて契約更新を拒否する新電力が現れ、やむなく大元の電力会社に申し込んでも拒否されるような現象が起き出しました。今では、新電力からの撤退、倒産が相次いでいます。

コロナ禍で傷んだ世界経済に、ロシアのウクライナ侵攻という誰もが想像すらしなかった事態となり、世界中が混乱をきたしています。一方でロシアに厳しい経済制裁を課しながら、一方でエネルギーを依存せざるを得ないというジレンマに陥っています。特にヨーロッパは深刻です。アメリカは世界一の産油国ですし、自前のシェールオイルの採算は1バーレル当たり40$まで技術革新が進んでいますのであまり困りませんが、他のG7諸国はそうはいきません。国連の拒否権をもった常任理事国のロシアが起こした戦争だけに誰も止めることができない。軍事的介入は第三次世界大戦を引き起こす可能性が高いので、ウクライナの人道上の問題は痛いほどわかっているが口先介入か間接支援しかできないジレンマに世界中がやきもきしています。

その裏で、着実に現実味を帯びているのが「スタグフレーションリスク」です。1974年の第一オイルショックと1979年の第二次オイルショックの時に経験した現象です。景気後退期の物価上昇です。当時は「物価上昇率+失業率」でその影響を判断していました。例えば、1974年〜79年のスタグフレーション期間とその直前の1968年〜73年の「物価上昇率+失業率」を比べてみるとよくわかります。( )内が1968年〜1973年の好景気の時です。米は15%(9.6%)、日本は13.4%(8.0%)、西独は9%(5.4%)、英20.4%(9.9%)、仏14.8%(7.8%)、加16.4%(10.1%)、伊21.3%(8.6%)という具合です。物価上昇率が高いと失業率は低く、物価上昇率が低いと失業率が高いというトレードオフの関係が成り立つのが一般的な経済法則でした。そころが、スタグフレーションは失業率が高いのに物価上昇率が高い現象が起き出したのです。
これは主に1972年のニクソンショックによるドルの自由化とそれに連動する2度のオイルショックによる影響が大きいといわれています。需要と供給 のバランス以外の要因で物価が上昇しだす現象と言えます。

「世界はインフレ、日本はデフレ」を最近の統計でみてみると、日本以外の失業率は大幅に改善しているなかで物価上昇が実現しています。失業率と物価上昇率をそれぞれの国でみると米は3.8%、7.9%、英は4.4%、6.2%、独は5.1%、2.1%、仏は6.1%、2.9%、伊は8.8%、5.7%、加は7.5%、5%となっており景気上昇基調にあります。日本だけ2.8%と▲0.5%と低い状態で景気低迷下にあります。そこにロシアのウクライナ侵攻に伴う景気上昇率が、加で▲0.3%、米・仏・日で▲0.4%、英で▲0.6%、独で▲0.8%予想されていますので日本以外は若干影響を受けると思われます。

日本の失業率はG7加盟国で最低ですが、資源コストが上昇するため2%近くになると予測されています。給料が上がらないにもかかわらず物価上昇すると思われますので、最も早くスタグフレーションリスクの再来となります。さらに、不気味なのは最近の異常ともいえる円安水準です。「有事の時の円買い」のジンクスは今回はないようで、125円/$と安く、しかも原油は105$/Bと異常に高い。高い原油を円安で買うと最低でも倍の高さとなります。数年で資源コストの高騰は落ち着くでしょうが、当面はこのような環境で経営をしなければならないと思います。

スタグフレーションの対策としては、DXや発想の転換で生産性を上げることが最も効果的です。今の仕事の進め方をゼロベースで見直し、やめること、改めること、取り入れることをドラスチックに実行に移すことです。