No.1204 ≪日本には画期的な技術がまだまだ眠っている≫-2022.3.24

昨日は原丈人氏主宰の「ITあわじ会議」に参加しておりました。原丈人氏とは何者かと問われても説明しにくい方ですが、ITとバイオと医療を中心にアメリカを拠点にグローバルに活躍されている投資家で、国内では安倍内閣以降の内閣参与を歴任され、現岸田内閣の参与でもあります。お父さん(原信太郎氏)がコクヨ創業者一族の方で、その関係で約20年前からご縁をいただいております。最近は「英米型の『株主資本主義』の時代は終わり『公益資本主義』へ移行すると提唱され、著書に「21世紀の国富論」(平凡社)、「新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性」(PHP新書)「『公益』資本主義 英米型資本主義の終焉 」(文春新書)等があります。「ITあわじ会議」は毎年開催されていますが、主にITとバイオの融合による新産業の創造を目指しておられますのでご紹介したいと思います。

今回、特に印象に残った技術があります。「バイオ合成」技術です。神戸大学副学長の近藤昭彦氏のチームが研究しており、従来の化学合成とは全く発想が異なり、生物を使った合成技術で、主に「水素細菌」を使って様々な物質を生産する技術です。プラスチックは主に石油由来の有機酸から生産されますが、地球にやさしいバイオプラスチックはトウモロコシやサトウキビ等の糖を用いた微生物発酵で生成される有機酸を使っており、近年その割合は増加しているそうです。しかし、トウモロコシやサトウキビ等は食料と競合するため、糖を用いず直接二酸化炭素から有機酸を生成することが求められていました。

そこで、ラン藻が注目され、ラン藻は光合成により二酸化炭素を取り込み、水素と有機酸を同時生成する能力を持っていることがわかっており、遺伝子操作によって水素の生産量を減らし有機酸の生産に振り向ける技術が開発され、二酸化炭素からプラスチックの原料となる有機酸を直接生産することが可能になりました。生物由来のプラスチック、つまりバイオプラスチックは海の中でも土の中でも分解されるため環境を汚染しません。また、タンパク質の一種である有機酸生成技術は食料生産も可能です。プラスチックも肉もゴムも二酸化炭素から直接生産することが可能になるという夢のような技術です。

化学合成は石油が原料ですから、生産にも消費にも大量の二酸化炭素を発生し、地球温暖化を促進してしまいます。さらに、その生成には大規模な生産プラントを必要とし、大量のエネルギーを消費します。プラスチックを作るために大量の二酸化炭素を発生させ、それを廃棄するにも大量のエネルギー消費と二酸化炭素発生が必要で、地球環境を悪化させてしまいます。さらに、海中投棄によってできるマイクロプラスチックは海の生物の健康阻害を促進し、内臓に蓄積された有害なマイクロプラスチックを人間が間接摂取して健康被害を起こすという悪循環をもたらします。ラン藻類の水素細菌を使ったバイオ合成は、これらの悪循環を断ち切り、完全で自然な循環を可能にします。

問題はこれらの優れた日本の技術が世界をリードできるようにどれだけ政治が機能するかが問題です。優れた技術もユニークな発想も世界のデファクトスタンダードに合致しなければ普及しません。従来の科学的なエビデンスに依拠したデファクトスタンダードを新しいそれに変えるには、ロビー活動を通じた利害関係者の説得が必要になります。日本は戦後7年間のGHQ占領によって日本精神や文化や政治意識が骨抜きにされてきました。主流派が英米の巧妙な意向に沿った改革を牛耳ってきました。勇気をもって日本にとって、日本国民にとって最も有益な改革であってほしいと思います。英米追随の結果、日本で何が起きているか。バブル崩壊後30年間、GDPのゼロ成長、平均給与のゼロ成長です。韓国にも、中国にも追い抜かれ負けています。少子高齢化で、生産年齢人口のマイナス成長でデフレばかりが進行しています。30年間増えない給料の日本で、コロナの影響で世界的なインフレ、ロシアのウクライナ侵攻の影響であらゆる物価高騰はとんでもない状況になります。

今回のコロナワクチンの開発においても、治療薬においても、日本の技術は相当なレベルまで進んでいると思いますが、最後の決断が一向にできません。すべて英米当局の特別承認されたものを追認していることを見ても何とも寂しい限りです。

「ITあわじ会議」で報告された技術で、とても魅力的で世界の注目を浴びそうなものがたくさんありました。それを成長させるには資金が必要です。その資金をリスク覚悟で出せるかどうかで未来は決まります。
最初のWindowsのアイデアは日本人でしたが、世界に広がったのはアメリカのMicrosoftです。コロナワクチンのmRNAのアイデアは日本人でしたが、世界に広がったのはドイツのビオンテックとアメリカのファイザーです。量子コンピュータのアイデアは日本人でしたが世界をリードしているのはアメリカと中国の企業です。
そのいずれもが中小企業や個人のアイデアです。自分のアイデアを信じて、世界に売り込む技術や人脈を持たねばならないと痛感しました。「鶏口となるも牛後となるなかれ」の精神で突き進みたいと思います。