どこかでだれかが「リセットボタン」を押さねばならなくなるかもしれません。というのは・・・
イギリス・グラスゴーで2021年10月31日~11月13日にかけてCOP26が開催されました。1997年の京都議定書(CMP16)で2012年までに温室効果ガスを6%削減することで合意し、その後の2015年開催のCOP21パリ協定(CMA3)で5年ごとに削減目標を提出し管理しようということになりました。では今回のグラスゴーCOP26では、何が決まったのか、抜け道がいっぱいあるようで良くわかりません。
京都合意以来共通しているのは「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求。出来る限り早期に世界の温室効果ガスの排出量をピークアウトし、今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を達成」という表現だけです。
具体的には日本の意欲的な削減目標だけが国際公約になっている印象があります。しかし、国際公約である以上、日本はそのように行動しなければなりませんので、カーボンオフがビジネスの長期トレンドになることは間違いありません。
一方、カーボンオフで最も影響を受けるのは電力業界と自動車業界です。最近の原油をめぐる国際情勢は目まぐるしく変化しており、昨日(2021年11月24日)はアメリカ、イギリス、中国、インド等と協調して1975年のオイルショックの教訓として立法された石油備蓄法成立以来初めて国家備蓄石油の一部(数日分とか)が売却されることになりました。リーマンショックの時でも実行されなかった決断です。歴史的決断にも関わらず、その目的がOPEC+ロシアの増産拒否の動きをけん制するポーズに過ぎないので、あまり大して効果はなさそうです。価格高騰は持続するようです。巷間の情報ではエネルギー問題の解決は数年かかるとか。
2021年11月24日現在、ニューヨークの原油価格は1バーレル(約159リットル)79$の高値圏を推移しています。コロナ禍真っ最中の昨年4月の原油価格は約17$、今年に入って1月は約52$、5月に約65$と続騰しています。思い起こすと2011年に起きたエジプト政変危機、さらに続いたリビアの春はリビア原油の途絶を生み、中東の不安定化が原油価格の高騰を招き、ニューヨークの原油価格は約95$と異常な高値となりました。この高値は2014年まで3年間続き、その間にアメリカでは「シェールオイル革命」(2014年)が起きました。シェールオイルの採算分岐点は約50$でしたので、十分に採算に合い、まさに「革命」となったのです。その結果、原油価格は安定し、2016年以降は約40$前後まで下がり、シェールオイル会社は採算割れとなり多数倒産しました。
「シェールオイル革命」がブームのころ、アメリカはイランへの経済制裁の関係で2015年12月18日に原油禁輸を解除しました。あの時は、イランが経済制裁に対抗するため安値で原油生産を始めることに対して、シェールオイル革命を成功させたアメリカは価格下落しては困るので原油輸出に踏み切った経緯があり、今回とは逆の事情があります。アメリカも国家を危険に陥れてまでコロナ後の急激な経済回復需要を満たす責任を負うとは思えません。
これにSDGS運動が影響し、カーボンオフの国際公約が関わってくると、ますます原油やそれに連動するLNGは高値安定が数年続くことになります。エネルギー資源は経済安全保障問題の重要なファクターですので、「持てる国」と「持たざる国」の勢力図が今後の世界の動向に影響を与えそうです。
「持てる国」と「持たざる国」と言えば…デジャブー! 日本が太平洋戦争に突入するきっかけになったのが今回同様「エネルギー問題」でした。1930年代後半から始まったABCD包囲網を思い出します。ABCD包囲網とは、America、Britain、China、Dutchが日本に対して石油などの輸出規制を行った一種の経済制裁です。これは当時の国際法上では宣戦布告と同様の意味を持っていました。今回の岸田内閣の決断した国家備蓄石油の売却を進めるにあたって協調するのがアメリカ、イギリス、中国というのも歴史のいたずらのようです。
エネルギーが高騰すると産業界だけでなく国民生活全般に悪影響します。給与は上がらないのに生活物資が軒並み上がる、いわゆる悪性インフレになるからです。デフレ脱却するための消費者物価を+2%上げるアベノミクスとは異質です。さらに、厄介な問題が続々と起きています。
一つは海上運賃の高騰です。コンテナ不足、船不足から年初の10倍近い高騰がまだ続くようです。海も陸も物流コストは高騰する一方と思われます。さらに、FRBの利上げ憶測から円安が続伸することです。昨日は1$=115円まで続伸しています。さらに異常気象による食糧生産異変が世界中で起きています。さらに、半導体不足に伴うあらゆるでき製品の納期長期化です。来年は、あらゆるものが高騰する可能性が高くなります。
このような時にどのような経営方針を打ち出すか、経営者のインテリジェンスが問われます。何が災いし、何が幸いするかわからない。顧問先の経営者の口癖をご紹介して締めくくります。「禍福はあざなえる縄の如し」まさに「人間万事塞翁が馬」だと。