No.1213 ≪逆境をチャンスに変えたある会社の物語≫-2022.5.25

先日、私の所属する那覇市倫理法人会のモーニングセミナーでとても感銘を受けた話を聞きした。中小企業経営の真髄ともいえる「逆境をチャンスに変える」経営を実践しておられるある会社の物語です。中小企業は本来「ナイナイづくし」です。あるのは意欲と元気とアイデアだけです。中でも逆転のアイデアは中小企業の真骨頂ともいえます。沖縄でフルーツランドを経営する創業49年のある会社の4代目社長の話です。

創業49年にして4代目というのはあまりにも早い社長交代だと思っていましたら、創業者の意向で「観光は変化が激しいので(環境適応するには)社長は10年で交代すべきだ」という考えに基づくものだそうです。
パイナップル農家をしていた創業者が、沖縄の本土復帰をきっかけに観光農園として創業された会社です。
私が転勤で初めて沖縄に赴任した平成元年(1989年)のころは、沖縄の本土復帰17年目でした。そのころの観光客は約294万人で、冬場は収穫期を終えた農協関係の団体客、年末から春にかけては全国から修学旅行生、卒業旅行の学生、夏はビーチリゾートの団体旅行ではやっていました。沖縄旅行と言えば団体旅行やパック旅行が主流で個人旅行はまれでした。

この会社の主力はパイナップルですが、パイナップルの旬の時期は1年の内2週間〜1か月ぐらいしかなく、そのほかは葉っぱしかありません。そこで、団体旅行客を受け入れて、農園をガイドしながら説明し、最後にお土産を買っていただくように工夫しました。沖縄の北部エリアに位置するこの会社は、今でこそ東洋一の「ちゅらうみ水族館」がありますが、当時は海洋博跡地の熱帯ドリームセンターしかありませんでした。そこにフルーツランドのオプションを組み込めるので団体旅行を主催する旅行社にも好評でにぎわいました。

LCC就航に伴い次第に、沖縄観光は団体旅行から個人旅行に移行し、修学旅行や海外のインバウンドは観光バスが中心でしたが、卒業旅行や家族旅行はレンタカーが中心になってゆきました。すると、この会社にも観光バスよりもレンタカーで来られるお客様が増えたのです。レンタカーは子供連れのファミリー層がほとんどで、レンタカーごとにガイドをつけるわけにもゆかないので、大きな看板に園内のコースを開示して自由に回っていただくように変えました。しかし、だれも看板を見る人がおらず、クレームが殺到したのです。
「せっかく来たのにパイナップルがない」ではないかというクレームです。看板にはパイナップルの旬の時期は限られていることも書いていたのですが、誰も看板を見ていないので止むを得ません。どうしたものかと考えた社長は、子供連れが多いことに目をつけて「トロピカル王国物語」という絵本を作り、園内の観光コースの中にスタンプコーナーを設置して、絵本のスタンプを全部押すとプレゼントをもらえるようなスタンプラリーを考案したのです。物語は「ある日 王様がいなくなった」ところから始まり、皆で妖精の国に探しに行くと言うストーリーです。途中で出されるクイズに答えて正解しないと次に進めないように工夫されており、2時間ほどで回れるコースです。これはあたりました。特に、子供が喜んでクイズに答えスタンプを探しまわります。クレームという危機を見事チャンスに変えたのです。

しかし、社長はある異変に気付きました。2時間コースの「トロピカル王国物語」の途中で子供が泣きながら戻ってくるファミリーが何組もおられるのです。理由を聞いてみると、ホテルのチェックインと食事の予約の時間、道路の混み具合を考えると子どもにはかわいそうだが最後まで回る時間が無いというのです。子供はせっかく夢中になってスタンプを集めていたのに途中でやめないといけないのだから泣きます。リゾートホテルの多くは恩納村にあります。農園から1時間ほどかかります。
社長は何とかしてあげたいと思い、社員の意見を聞きながら考えました。それならホテルを作ればよいではないかということになりました。北部で1泊していただければゆっくりと北部エリアを観光していただけるし、売上も上がり地域の活性化にもなる。地域の経営者仲間とも話し合いをし、ホテルを作ることに決めました。

今ではやんばる(沖縄北部地域を“やんばる”と言います)地域をぐるっと観光する「無料シャトルバス」まで走らせ地域活性化の一翼を担っています。
もっと知りたい方は現地で自ら体験してください。中小企業にとってきっとヒントが見つかります。
クレームという逆境をチャンスに変える。ナイナイづくしだから知恵を出す。自分の会社だけでなく地域の仲間も巻き込んで皆でハッピーになる。先義後利、三方よし、利他の心の見本を見た思いです。