No.1189 ≪今こそ「先義後利」の精神で。≫-2021.12.2

コロナ禍の影響で倒産件数及び負債総額が激減し最少を更新していることは皆さんすでにご存じだと思います。
不思議ですね。コロナでどこもかしこも売上高が1割2割減は当たり前で、半減とか7割減とか9割減といった異常な経済状況にもかかわらず、倒産件数はとんでもなく少ないのです。東京商工リサーチの調査によれば、2021年上期(4月~9月)の倒産件数は1972年のオイルショック以来の最低件数です。なんと55年間で最も少なくなったのです。負債総額では1972年以来3番目の低い水準だとか。それほど、国や地方自治体のコロナ対策が功を奏しているといえますが、実態を覆い隠しているに過ぎないともいえます。企業の経営体質が改善したとは思えません。客数を半減しても利益を出せる経営に切り替えておられる企業は大丈夫ですが、補助金や借入金でつないでいる企業はいつ倒産してもおかしくありません。客数が減っても利益を出すには、付加価値が高いか、固定費が低いか、回転率が良いか、新業態に移行しているか、どれかしかありません。国や地方自治体の使える支援は目いっぱい利用して新しい時代に順応できるように切り替えてゆきましょう。少~し、長い目で将来を見据えてみませんか?

菅内閣の時に創出された事業再構築補助金(予算額1兆1485億円)は業態転換や新分野進出等をもくろむ企業に対して、中小企業に対しては投資額の2/3、中堅企業に対しては1/2を補助するものです。今は第4次募集が始まっていますので、1年で4次の募集というのは企業を持続させるために政府の力の入れようが尋常でないことがわかります。公表されている第2回の採択結果では申請件数が18333社に対して9336社が合格しており、合格率は51%です。第一回目の合格率は記憶では約35%程度だったことと思うとずいぶんと合格率が上がっています。コロナが収束してもコロナ以前に戻ることはもうありません。着実に進化した社会に移行しています。規模追求は大手グローバル企業に任せて、私たち中小企業はもっと楽しい新しい社会での経営を考えたほうが良いです。

危機を乗り越える企業には確固たる経営哲学があります。経営の基本的な考え方を示したものです。目先の商才や器量も大事ですが、もっと大事なものが理念です。京都で「先義後利」を理念とされている企業が2社あります。大丸(現J-FRONT)と半兵衛麩です。大丸(現J-FRONT)は「社訓」として、半兵衛麩は「家訓」として今に伝えておられます。この言葉の語源は中国の戦国時代の思想家荀子の「先義而後利者栄」だといわれています。
「先義而後利者栄」とは、正しいことを優先し利益を後回しにするものは栄えるという意味です。大丸(現J-FRONT)創業者の下村彦右衛門が1717年に呉服屋「大文字屋」を京都で創業し、その後業容を拡大するとともに1736年に事業の基本理念として定めたのが「先義而後利者栄」といわれています。それが「先義後利」となりました。この考え方を伝えたのは、石田梅岩(1685-1744)ではないかといわれています。石田梅岩が独自の石門心学を確立し京都の自宅で商人道を説きはじめたのが1729年です。老若男女を問わず広く門戸を開放していた梅岩に師事したのではないかと思われます。
半兵衛麩の創業は1689年です。ホームページによりますと、三代目半兵衛三十郎氏は石田梅岩の思想「石門心学」を学び「宗心」の名を頂き、自らも講を開くぐらいに熱心に学びを深められ、家訓として「先義後利」を確立されました。子供の名前に「梅」「岩」をつけたぐらいに熱心だったとか。

石田梅岩は江戸時代の身分制度の最下層にいる商人の心を説き、正直・倹約・勤勉の3つの徳を基本に置きました。
1683年に江戸で開業した三越百貨店・三井財閥の原点である「越後屋」を創業した三井高利も「陳列販売・現金掛値無し」を前面に打ち出し大飛躍しました。当時の常識はお客様の所に見本をもってゆき交渉によって値段や条件を決めるやり方で、売る相手を選んでいました。しかし、三井高利は現金を持っている人ならだれでも、老若男女・身分貴賤関係なく商品を販売しました。いまでいうジェンダーフリーです。この考え方の基本にあるのは「先義後利」の考え方ではないでしょうか?

「利他」という仏教用語も最近はよく聞かれますし、経営に取り入れる企業も増えています。「利己」の為ではなく、誰かのために、社会のために、つまり「利他」精神を会社の基本に置く企業が増えたことは大変喜ばしいことです。
自社が儲かるよりも、社会の問題を解決し、社会を良くする、人を喜ばせるために仕事をしたい人が増えているのです。大変喜ばしいことです。

コロナ禍が落ち着き、変異株のオミクロン株がたとえ流行しても、コロナ対応の免疫はできています。以前のような終末思想のような暗さが来ることはもうありません。
事業を見直し、社会にとってなくてはならない事業に変えてゆくことで、再成長が可能になります。間違っても、コロナ以前に戻ることはありません。コロナ後の新しい社会が着実に足元で成長しています。コロナが収束するまでじっと我慢して耐え忍べばまた元の世界に戻れると思っておられる方は、恐らく大変な経験をされると思います。 コロナ後の世界は、利他の社会、先義後利の社会、三方よしの社会になってゆきます。そのような社会の中で生き残れるよう変身し、変革しましょう。正直・倹約・勤勉を心において。松尾芭蕉も言っています、本質は「不易流行」だと。