かねてから尊敬し注目してベンチマークしていた永守重信氏(1944~)の経営するニデック(旧:日本電産)が不正会計問題で揺れています。永守氏のハードワークは有名で、元旦を除いて、朝は誰よりも早く出社して、毎日16時間、年間365日働き、ゴルフも宴席も避けて通り、趣味も持たず、すべてを仕事に注入するとおっしゃっていました。そして、経営モデルと経営哲学を徹底し、動くもの・回るもので世界一を掲げ、世界中のモーター関連企業を積極的にM&Aを推進し、「ブラシレスDCモータでは世界一」を実現されました。M&Aした企業は有価証券報告書に掲載されているだけでも55社に上ります。
出所は失念しました(恐らく日経トップリーダーかダイヤモンド・オンライン、あるいはまたその両方かもしれません)が、経営モデルがとても参考になり手帳にメモしました。下記20項目が経営指標、いわゆるKPIです。
1.なんとしても全部門黒字
2.営業利益10%以上
3.キャッシュフロー黒字化
4.固定費:変動費 3:7
5.限界利益率50% 設計ベース60% BEP操業度60%
6.全員参加経営(1人100歩より100人1歩)
7.大型設備は24時間30日稼働を前提とし導入。1日メンテナンス
8.生産性年間20%以上
9.現地調達比率+内製化比率 合計80%以上
10.コストダウン 3%/四半期
11.スピード優先 2年で設備償却
12.品質の源流管理の徹底
13.在庫は1カ月以下
14.経費は売上高比5%以下
15.労働生産性100万円以上
16.怠け者を徹底排除 出勤率98%以上
17.日々完結 今日できることは今日中にやり遂げる
18.学歴・年齢・社歴に関係なく人材登用
19.ペイできない人材の排除(言い訳、泣き言、責任転嫁人材のゼロ化)
20.経営感性をもった人材の育成と抜擢」
それと「5つの基本」というモデルがあります。「・3Q6S工場は日本電産の憲法 ・赤字は罪悪である ・すぐやる、必ずやる、できるまでやる ・挑戦と闘争集団である ・シェアNO.1にこだわる。1番以外はびり」
3Q6Sというのは、①良い社員(Quality Worker) ②良い会社(Quality Company) ③良い製品(Quality Products)+整理・整頓・清掃・清潔・作法・躾を指します。
この2つのモデルを国内だけでなく、海外のM&A企業でも徹底展開されました。
京都企業の社員が海外出張する時の常識は「安全で安いホテルや飲食店はどこかを電産社員に聞いてから行くこと」だとか。「費用決裁は1円から」というコスト意識を持ち、全社員が筋金入りの電産マン、永守チルドレンだったから世界一になれたと思っています。昨年、社長交代されましたが、業績は2025年3月で連結売上高26,078億円、税前利益2,333億円、43カ国展開、従業員10万名、関連会社349社に成長されています。
M&A巧者で有名ですが、1995年ごろから資本参加する形でM&Aを活発化され、2012年以降は買収に変わり多い年で6社の買収実績があります。世界中でM&Aを推進すると、会計はIFRS方式で連結決算ですので、多数のM&A企業ののれん代は20年間で償却する日本式とは異なり、償却せずに毎年の減損テストで経営判断し減損する方式になります。
今回の不正会計が話題になっているのは、M&Aの会計処理と直接関係ありませんが、M&A企業を本社会計に統合する過程で不整合が発生し、ある海外子会社で「売上が上がっていないのに利益が出ているのはおかしい」と気づいて監査を進める過程で、2025年7月22日に中国子会社で在庫評価問題として浮上しました。今後、マネジメント・ピンホールをふさぐ対策を打たれるのでさらに強い会社に成長されるでしょうが、「特別注意銘柄」に指定され、現在進行形の事案ですから今後の行方を注視したいと思います。
M&Aを推進するグローバル上場企業でない限り、IFRS会計の導入は必要ありません。しかし、規模の大小は別にして、中小企業経営において、今後確実にM&Aは増加してゆきます。その時に、しっかりとした経営哲学や経営理念を持つ事で防げることも多くなります。数字の裏にある真実を見る知識と技術と習慣を身に着けねばなりません。
