No.1199 ≪目先対応の弊害≫-2022.2.9

少し長文です。時間のある方はお付き合いくださいませ。

最近のコロナ対応を見ていて、何がどうなっているのか実態がよくわからないので困っています。今まではまがりなりにも政府の判断のもと省庁が指令を出し、地方自治体、関係団体、関連業界がそれに従って早い遅いはありますが実行に移され筋が通っていたように思います。「あれっ、おかしいな」ということも多々ありましたが、筋は見えました。今は、多種多様なやり方といえば聞こえは良いですが、支離滅裂のカオス状態に見えます。

医学、感染症学、薬学、化学は科学的に立証されて体系化されていると思っています。例えば、がん治療でも、ステージによって判断は分かれますが、手術して患部周辺まで徹底的に取り除くか、患部を温存し・服薬により治療するか、手法的には真逆ですが、がん細胞に対するアプローチとしては極めて分かりやすく、患者は自己の判断において選択肢があります。自分で選んだ結果は自分で納得づくで受け入れられます。

ところが、感染症であるコロナは感染症法という法律で国家が隔離推奨という強制隔離を行い、一定期間行動の自由を拘束します。疫学調査により発症からの行動歴を把握し、一定基準を満たせば、濃厚接触者として感染者以上に長期間にわたり行動の自由を拘束します。個人の自由よりも社会の安全を優先するため、感染してから解除されるまですべて国費で対応します。会社に勤めている場合は長期間休まざるを得ないので会社の内規による処遇となり、場合によっては収入が減る場合も出てきます。有給休暇で対応するか、特別休暇を新設するか、労災扱いにするか、方法は様々です。

2020年4月7日に緊急事態宣言が初めて発出され、日本中はコロナにおびえ身構えました。それに先駆けて2020年4月2日に事務連絡として、「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」及び「新型コロナウイルス感染症の軽症者等の宿泊療養マニュアルの送付について」を指令しました。感染症専門病棟は結核病棟も含めて全国に594病院5398床しかありませんでしたので、やむを得ない判断とおもいますが、本来なら大規模な臨時病院を各地に設営すべきだったと思いますが、甘く見ていたのでしょうか、法律を改正して施設療養と自宅療養を可能としてしまいました。
しかし、保健所の権限や役割はそのままにしましたので、全国の保健所の職員約28000人(平成30年の厚生労働白書)で対応せざるを得ませんでしたので、様々な不具合が随所に発生しました。

一番顕著だったのは発症のエビデンスとなるPCR検査能力の絶望的な不足です。1日約1000件の能力しかなかったのです。文部科学省管轄の全国の理系学部を持った大学には1日10万件以上のPCR検査能力を持っており、ベテラン検査技師も常備していました。IPS細胞の権威、山中教授が当時の安倍総理に大学の検査機能を使えるようにしてほしいと哀願しましたが、実現しませんでした。
検査数が少なくても保健所は聞き取りによる疫学調査をしなければなりませんので手いっぱいです。濃厚接触者が増えPCR検査がまた間に合わない。そんなイタチごっこの中で、病床が埋まり、行き場をなくした感染者及び濃厚接触者を隔離する場所として、ホテル、次に自宅になっていったのです。

ワクチン接種については、口下手で評判の悪かった菅総理の活躍が大きく特筆に値します。首相就任後、バイデン大統領と会談し、ファイザー社のトップに直談判し、日本国民に十分なワクチン供給を約束させて帰国し、当時1日4万回しかできていなかったワクチン接種を「一日100万回接種する」と宣言をしたのです。
一連の行動からトップの本気度を見抜いた役人や地方自治体の現場は迷いを捨ててフル回転し1か月もしない間に1日100万回どころか180万回を達成したのです。詳しくはNo.1182 ≪新時代の新内閣に期待する≫-2021.10.6のメルマガをご参照ください。

しかし、一方で増え続ける感染者に対し、保健所の指示がなければ治療もできない仕組みの中で、保健所からの連絡待ちの間になくなる方も出だしました。2021年4月ごろから尼崎の長尾医師は一人でも亡くなる方を減らそうとクリニック診療と往診を行い、検査で陽性となった患者にはイベルメクチンを投与する治療を続けられた。もちろん、保健所の指示無く治療する行為は違法です。しかし、やらざるを得ない状況に追い込まれていたのです。メディアで紹介されると賛同した全国の医師が同じ行動を起こしました。そこで厚労省はやっと重い腰を上げて2021年8月27日に病状が悪化した患者に緊急入院できる病院に限り外来診療で「抗体カクテル療法」を許可しました。

そして、デルタ株の3倍の感染力をもつというオミクロン株の登場です。全国に先駆けて洗礼を受けたのは沖縄県です。あまりの陽性者の多さに那覇市は2022年1月9日に早々に濃厚接触者調査をしない方針を打ち出しました。保健所がやるのは発症日を特定し本人に電話することと10日目に就業制限解除の電話をすることだけです。後は本人が自宅療養しながら推定濃厚接触者に直接連絡するようにしたのです。健康観察もほとんどなかったようです。

2022年1月14日には神奈川県が特定医療機関で「検査しない」方針を打ち出しました。気になる方は自分で検査キットを購入し、陽性結果が出れば50歳以上又は持病のある方や妊婦は特定医療機関を受診し、それ以外の方は自分で自主療養システムにアクセスして登録しその指示に従う。必要な場合は証明書を発行する。療養期間中の食糧は自費で調達する。

さらに、検査体制の不備(検査キット、検査機関、検査能力等の不足の意味か?)により、2022年1月24日に厚労省は事務連絡で全国の地方自治体に「新型コロナウイルス感染症の感染急拡大時の外来診療の対応について」という指令を発信し、医師の判断で検査せずに陽性とみなし、治療することができる。陽性者発生に伴う諸手続きは地方自治体の判断とするとあり、みなし陽性者は自宅療養とするが届け出は、検査で結果確定していないので「疑似症患者」として届け出て、就業制限は必要ないが自宅待機はしないといけないとQ&Aではなっています。

コロナ感染症は「感染症法」という法律で2類相当ということになっていますが、実際に行われているのは1類の致死率80~90%(厚労省ホームページ)のエボラ出血熱でも要求していない濃厚接触者の外出制限まで課していますので、事実上1類の上の特類になります。すべて厳重な国の管理下でコントロールする代わりにすべて国費で賄い国民の生命と財産を守ることを明文化しています。しかし、自己負担で行う自主療養やみなし陽性がまかり通るという現状のご都合主義、それに対してなんら反論が出てこない風潮はなんとも恐ろしい気がします。さらに、民間検査機関の検査結果の保健所への届け出は本人が意思にゆだねられていますので、検査数はさておき、陽性者数はなんとも「エエカゲン」であることに間違いなさそうです。もしかして社会免疫を狙っているのでは?と勘繰りたくなります。ならば、インフルエンザ並みにしてもよいのではないでしょうか?

確かに、オミクロン株は潜伏期間がデルタ株の5日に対し、3日と短いので発症すれば翌日から感染能力を持つのであっという間に広がり、あっという間に終息することは南アフリカでも沖縄県でも実証済ですが、さすがに1日10万人の感染者を出した時は驚きました。

太平洋戦争突入時の日本の状況のようで、長期的な視点の欠落、つまり最悪の事態を想定できていないために敗戦したように、コロナ対策についても目先対応の楽観論で終始しているように思えて仕方がありません。
マスクが無くなれば大号令をかけて増産し、行き渡ると知らん顔。消毒液しかり、検査キットしかり、検査機関しかり・・・災害レベルの今回の感染症は長期的視点で先手先手の対策すればもっといい結果になったでしょうし、必要な基礎研究にはいかなる反対があろうとも予算を投入しなければならないことが明らかになりました。行動できるかどうかはこれからの動きを注視しなければなりませんが。
ある人が「2番じゃダメなんですか?」と言いましたが、国の根幹にかかわる基礎研究は1番でなきゃダメなんです。先日亡くなった石原慎太郎さんが「日本人は大甘だ」と喝破していました。

私たち企業家は、長期的視点、多角的視点、根本的視点でものを見て、手を打とうではありませんか?