投資や相場というカネの多寡に価値を求める世界には様々な格言があります。例えば「一つのかごに卵をもるな」、「麦わら帽子は冬に買え」、「山高ければ谷深し」、「人のゆく裏に道あり花の山」いずれも一度は聞いたことがおありではないですか? 会社も同じ格言が当てはまります。
「一つのかごに卵をもるな」とは、卵を一つのカゴに盛ると、そのカゴを落としたら全部の卵が割れてしまう。複数のカゴに分散しておけば、卵を失うリスクは最小限に防げる、つまりリスク分散の重要性を説いています。
一つの事業に特化していると、その事業のニーズがあるうちは成長するけれどもニーズが変化したり減少すると経営もおかしくなり衰退します。主力事業が成長している間に第二、第三の事業の柱を開発し投資することが重要です。特に将来高成長性が見込まれる分野に関連する事業にかかわることが重要だということです。
また別の見方もあります。アメリカの作家マーク・トエインは作品の中で「愚か者は言う『全部の卵を一つの籠に入れるな』と。しかし、賢者は言う『全部の卵を一つの籠に入れ、そして、その籠を監視せよ』」と主張しています。監視することでかごが危険になれば安全地帯に移動させて安全を確保するのです。あなたはどちら派ですか?
「麦わら帽子は冬に買え」とは、冬に麦わら帽子を買う人は少ないので比較的低価格で手に入る。ところが需要や注目度が高まると価格も上がると同時に手に入りにくくなる。儲かるものを見つけて先回りして購入しておけば高くなった時に大きな利益を得られます。この格言が正しいかどうかを日経新聞が調査した記事(2016年7月8日付WEB版)があります。2月と7月で最も株価が高騰した株式と下落した株式を調べたのです。1位は富士通ゼネラル(エアコン)で66%UP、以下、ライオン(日焼け止め関連)が63%、森永乳業が44%、伊藤園が42%となりました。下落はロート製薬18%、ローソン10%と下落率は小さいですが、あまりの暑さに出歩かないことによる需要低下ではないかと推測されます。
「人のゆく 裏に道あり 花の山」とは、他人と同じ行動をしたのでは儲からない。人とは逆の行動をとらなくてはならない。これは千利休の言葉で、辞世の句と呼ばれ、「いずれを行くも 散らぬ間に行け 」と続きます。
千利休は「花の山(きれいな花)を見たいのであれば、人が大勢歩いている表の道より、裏の道を行くべきである。そして、表の道を行くにしても、裏の道を行くにしても、花が咲いている間に行かなければいけない。タイミングが大事だ」と言っています。
DEIビジネス(Diversity:多様性、Equity:公正性、Inclusion:包括性)の一環としてESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)やSDGS(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)がビジネスでも注目を浴びて活況を呈しています。ところが、トランプ次期大統領はDEI、ESG、SDGSは一部の既得権者による巧妙な戦略だとし、これを放棄する準備をしているとのことです。きれいな花の山を見たいのは皆同じでもどの道を通るか思案のしどころになりそうですね。また、タイミング的にもSDGSトレンドは少なくとも一時的な停滞は避けられないのではないかと思います。
「山高ければ谷深し」とは、相場は暴騰することもあるが、その後反転し、急落する危険をはらんでいる。「上げ幅が大きいときほど、下げ幅もきつい」。会社も同じで、順風満帆で勢いよく飛ぶ鳥落とす勢いで右肩上がりに成長・発展した企業は、ピークを越えると右肩下がりに下落してゆきます。しかも墜落に近い形で。
山道には踊り場があります。いったん体制を立て直して次のゴールに向けて登ってゆくのです。一直線に上り詰めると疲労困憊し余裕がなくなりちょっとした気のゆるみで大事故になりかねません。
先日、友人と熊野古道を数か所歩いてきました。熊野には九十九王子と言われるぐらいたくさんの王子があります。実際には101か所(大阪府下に26か所、和歌山県下に75か所)あります。王子とは熊野権現の分霊を祭った社で、ここでお参りをして次を目指すようになっています。この王子が踊り場、休憩所の役割をして山深い熊野参詣を可能にしていたのです。会社も同様、トップが体力に任せてぐんぐん突っ走ると社員は脱落してしまいますね。それを立て直すには並みたいていのエネルギーではできませんし、いったん失った人々に代わる人を育てるには気の遠くなるような時間がかかります。「山高ければ谷深し」を心得て経営しなければなりませんね。