No.1320 ≪年功序列の功罪≫-2024.7.12

今日は年功序列の功罪について考えます。
文化的に農耕民族である日本人は古代より助け合って共同作業し、収穫後は仲間に平等に分配する歴史が長く続きました。そして年齢や勤続の長い経験値が豊富な人が評価されたのです。いわゆる長老文化です。一方、狩猟民族の欧米では個人の技量や能力が評価されます。獲物を仕留めたものが評価される文化です。民族の遺伝子にこのような違いがあることを踏まえねばなりません。高度成長期における日本的経営の三大特徴は「終身雇用」「年功序列賃金」「労使協調」といわれ、これによって敗戦国日本が「東洋の奇跡」を実現し今日があるのです。

この強烈な成功体験は主に団塊の世代以降のDNAに焼き付いており、オイルショック、ドルショック、プラザ合意を乗り越えてバブルを迎え、日本経済は絶頂期を迎えました。「JAPAN AS NO.1」と呼ばれた時代です。その時代は長く続かず、バブル崩壊の現状維持経済は失われた30年といわれ、もがき苦しんでいます。長引くデフレの中で給与が上がらない、生活ができない、結婚できない、子供を育てられない。「安く、もっと安く、さらに安く」がテーマでした。日本的経営のお題目「終身雇用」「年功序列賃金」「労使協調」でこれからのグローバル社会を乗り越えられるのか団塊ジュニアやZ世代はその功罪を冷静に分析しています。

高度成長期は年齢、勤続、学歴といった絶対基準で賃金を決めることが有効でした。年功とともに賃金も上がり、定年まで勤めあげればまとまった退職金を手にできるので安心して働けたのです。アメリカの指導で能力主義賃金制度を模索した時期もありましたがことごとく失敗してきた歴史があります。男女雇用均等法施行やバブル崩壊後は外資系の主流である成果主義、年俸制が大企業中心に導入が進みましたが、失われた30年の現状維持経済ではことごとく失敗しました。

なぜ失敗したか? その理由は「定年まで安心して働ける」ことを優先したからです。狩猟民族の遺伝子を持っている外資系企業では年齢や勤続ではなく一流大学MBA取得と資格と実績を上げる技量を評価するため、目標達成すれば給与も権限も待遇も上がりますが、そうでなければ自ら身を引くか、解雇されるか、薄給を甘んじて受け入れ復活を決意するかしかないのです。日本の労働者のほとんどは農耕民族の遺伝子で横並び意識で動いており、実績が乱高下すると待遇も乱高下する成果主義は受け付けなかったのです。

大谷選手に代表されるように世界で活躍する日本人アスリートは目をみはるばかりに増えてきました。最近の若者も能力主義で身を立てようとする人も増えてきています。転職サイトの活況を見てもそれがうかがえます。彼らは狩猟民族の遺伝子に近づいて、英語はもちろん国際的に通用するダブルライセンスを若いうちに取得しなければなりません。突出した技量も必要です。グローバル経済が元に戻ることはありません。これからの会社は中小企業といえどもグローバルに展開するためにこのような若者をできる限りたくさん発見し育成しなければ持続的に成長できなくなってきています。外国人人材の登用も進めねばなりません。そこには年功序列の入れる隙はありません。

話は変わりますが、高度成長期は2人に1人がクルマ関連に従事しているといわれました。銀行はじめ財閥系企業が株の持ち合いをすることで成り立っていた時代があります。エンジン車の部品は約3万点あり、部品の数だけサプライチェーンがありました。EV時代に入り部品点数は約1万点と激減し、そのすそ野は大きく縮小しました。そして、事件が起きました。産業界の王者に君臨していた自動車メーカーが、世界で勝ち残るためにより高品質の商品開発を推し進め、時代遅れ(?)の国内基準に合わせるためとはいえ軒並み不正に手を染めていたことが発覚し、日本のマネジメントに「?」がついたのです。本来なら日本の産業界に君臨する大手自動車メーカーが監督官庁のエリートを説得して国内基準を世界基準にレベルアップする啓もう活動をすべきところを安易な道を選んでしまったように見えます。

経営方針の達成度は心理的に評価制度と密接に連動しており、目標と評価は車の両輪です。納期的に無理のある認証取得目標が経営方針で設定されたならば、たとえ偽装してでも達成しようとする力が働き努力をします。達成すれば評価され大きな権限を手にできます。年功を重ねて評価され昇格してきたエリートがこのような不自然なやり方に異を唱えることができなかったならば、トップに諫言することができなかったならばこれは年功序列の弊害といえます。

今年になって経団連が音頭を取って(取らされて?)「賃上げ大合唱」が始まりました。連合によりますと5284社の賃上げ率の最終結果が「33年ぶりの5.1%超の高水準だった」そうです。サントリー、生命保険各社、メガバンク、イオンは7%、伊藤忠商事6%。自動車メーカーおよび関連会社は軒並み満額回答、賞与はトヨタの7.6か月に引きずられるように軒並み6か月以上が続出。従業員1000人以上の大企業が平均賃上げ率5.24%でベースアップ分が3.56%、300人未満の中小企業が4.45%、ベースアップ分が3.16%だそうです。
初任給ではもっとドラスチックで、日本製鉄20%、イトーキは16.3%、スズキ14.1%、コクヨ12.8%、JTB12%とアゲアゲムードオンパレードです。大量採用しつつエリート人材を厳しく選別する会社が増えてきたようです。
皆さんの会社の賃上げ率はいくらでしたか? 中小企業は以前から大企業が賃上げを凍結している時でも約4%の賃上げを実行していますから、大手企業にいいとこ取りをされて、中小企業が見劣りイメージを植え付けられて残念です。

日本的経営を特徴づけてきた勝ちパターン「終身雇用」「年功序列賃金」「労使協調」は色あせて形は変わりますが、本質は変わることはないと思います。終身雇用は解雇権を封印することですし、年功序列賃金はその割合が縮小するでしょうがゼロにはなりません。労使協調もなくなることはありません。農耕民族の遺伝子が消滅するまでは。