No.1318 ≪マイナスの効用≫-2024.6.26

「1+1=2、1-1=0。これはわかるけど、1×(-1)=-1、(-1)×(-1)=1はなぜそうなるの?」
中学1年の数学で学ぶ法則です。ごく当たり前に何の疑問もなく日常的に使っていますが、子供たちに「マイナス×マイナスがなぜプラスになるの?」と質問された時にうまく答えられませんでした。皆さんはいかがですか?

マイナス(負の数)の概念が世界で最初に発表されたのは中国の魏の劉徽氏が263年に著した「九章算術」だと言われており、360年後にインドのブラーマグプタ氏が628年に著した「宇宙の始まり」の中で数学について解説し、「0」と「負の数」の概念を提唱しておられます。加減乗除、代数方程式の考え方もほぼ現代の考え方と変わりません。
一説によると、さらに1000年前のマヤ文明では「0」の概念がすでに使われていたそうです。
インドのブラーマグプタ氏の「0」や「負の数」の概念はヨーロッパでは長い間理解されず、フィナボッチ数列で有名なイタリアのフィナボッチ氏が著した『算盤の書』(1202年)まで待たねばなりませんでした。その後、デカルトが1600年ごろに数直線上に「0」を基準点として右側が「正の数」、左側が「負の数」と表示することで次第に広まっていったようです。
インドでは負の数を負債、損失という概念に応用していたと言われます。自分の資産を正の数とするなら、借入金(負債)は負の数、商売上の利益は正の数とするなら赤字・損失は負の数という風に応用していったようです。

中学1年の数学で「マイナス×マイナスはなぜプラスになるのか?」という疑問に戻ります。
私はなんら疑問を持つことなく公式として無条件に暗記するタイプでしたので、このような素朴な疑問には頭がパニックになります。ネットで検索しても中学1年の子供に説明する上で納得のゆくような解説はありません。数直線上で説明するのが一番だと落ち着きました。そこで様々な解説を読み漁りました。
とてもわかりやすいwebを見つけました。
 https://www.careerinq.com/blog/mitani/2010/05/64.shtml 
加減乗除の+-×÷は演算子と言います。これと正の数を意味する+と負の数を意味する-が混同しているので混乱しますが、webでは演算子に名前を付けて説明しています。
Webの概要は以下の通りです。
『演算子「+」はタス君。この子は正の向きに歩いて行く。何歩歩くかは、その後ろの数字が決める。正だったらそのまま、負だったら後ろ向きに。だから、+3だったら、正の方向に3歩。+(-3)だったら、正の方を向きながらも、後ろに3歩!
演算子「-」はヒク君。この子は負の向きに歩いて行く。-3だったら、負の向きに3歩。-(-3)だったら、負の向きを向きながら、後ろ、つまり正の方へ3歩。よって、+(-3)と-3は同じ。+3と-(-3)は同じ。』

分かりやすいでしょ。私が一番納得できた説明でした。掛け算・割り算は演算子「×」は前の数字に負(-)の符号があれば絶対値に変えて、しかも、進む方向を逆にする力があります。後はタス君とヒク君の応用です。
例えば、3×(-2)は、ヒク君の出番ですので、負の向きに3が2回進むので(-3)+(-3)=-6となります。(-3)×(-2)は、演算子「×」の前の数字にマイナスがついていますので、絶対値3をタス君にバトンタッチして3+3=6となります。演算子「×」の威力はすさまじいですね。

「これは経営にも当てはまるな」と直感しました。-はマイナス・ネガティブ・赤字・苦境・負債・無名・衰退・縮小・撤退・短所・弱み・・・。+はプラス・ポジティブ・黒字・資産・有名・成長・拡大・進出・長所・強み・・・
数学ではマイナス+マイナスはマイナスですが、マイナス×マイナスはプラスです。経営に置き換えればどうなるか。
例えば、「縮小する市場」(マイナス)の中で生き残るためには「値下げ」(マイナス)して買っていただこうとしがちですが、これではさらに大きなマイナスを被ります。
「縮小する市場」(マイナス)と決別して「撤退」(マイナス)を決断するとどうなるでしょうか。リスクが高かろうが自社の強みを生かせる分野に進出するというプラスの発想が生まれますね。あるいは、撤退されると困る顧客は撤退を思いとどまらせようとあの手この手で懐柔してきます。価格は言い値で良いので継続してほしいと本音を打ち明けてくれます。いつの間にやら価格が数倍になり、撤退を真剣に考えるほどの赤字部門が大黒柱の一つと言える黒字部門になるということはよくある話です。マイナス+マイナスの引き算にするか、マイナス×マイナスにするかの違いはどこにあるのでしょうか。恐らく、演算子が「+」の場合は無難な延命策によって結果的には破滅の道まっしぐらになります。演算子が「×」の場合は、覚悟を決めた不退転の決意で、結果は大飛躍を遂げることができます。進む方向は同じでも結果は真逆になります。
マイナス+マイナスでは大きなマイナスにしかなりませんが、マイナス×マイナスになればプラスに転じることができるのです。「ピンチはチャンス」という名言もこのあたりからきているのかもしれませんね。