白い犬はまた数歩進んで後ろを振りかえってじっとこちらを見ている。
「しおりのいう通りかもしれないな。ついて行ってみよう」
白い犬の後をついてゆくと、犬はもう、振り返らなかった。すると、洞窟のようなところで白い犬は立ち止まり、しばらくこちらをみて、洞窟の中に入っていった。
「ついて来いと言っているみたいだ」
おそるおそる洞窟に入ると、先ほどの芳しい香りはこの洞窟の中から漂っているようだ。洞窟の中は太陽の光が入らないのに明るい。なぜだろうと思っていると周囲の花から光を発して、それが洞窟の濡れた天井に反射して明るいのだ。足元は小石が転がっているが、歩きにくくはない。どれぐらい歩いただろうか。岩の洞窟が消えてまばゆい光に包まれた森のような木立に囲まれた場所に出た。気が付くと、白い犬の姿は消えていた。
「なんだここは。まるで森の中だ」
「洞窟の中にこんな空間があるなんて」
「これは洞窟の中じゃない。洞窟は門のようなものじゃないかな。どう考えても洞窟の中とは思えない」
「そうね。ね、上見て。空よ」
「ほんとだ。空だ。ここはどこなんだろう。大原野神社の中にこんな場所があるなんてびっくりだな」
上をみるとどこまでも続いているようで、天井という景色ではない。もう空そのものだ。空から光が差し込んで森の木の枝葉を通り過ぎ、地面に木漏れ日を作っている。地面は落葉樹の落ち葉の間から小さなコケやシダが一面に生えている。
「きれいだね。この世のものとは思えない」
「そうね」
