春闘の季節。3月14日に連合が公表した第1回目の2025年春闘集計では、平均賃上率はベア・定昇込みで5.46%と昨年より0.18%UPし、2年連続で5%台をキープしました。中小企業は5.09%と1992年以来33年ぶりに5%超えを実現しました。また、パートタイマーの賃上率も過去最高だったようです。
数字だけ見ると政府主導の賃上げが順調に進んでいるように思いますが「からくり」があるようです。若い人を採用したい企業は初任給30万円超を表明しており、バブル再来ともいえる売り手市場となっています。2024年6月の内閣府の年代別賃上げ率調査によると、29歳以下が4.2%増、30代は3.6%増、40代は2.7%増、50代は1%増です。子育て世代には厳しい結果になっていますので景気は期待できそうにありません。GDPの53%を占める個人消費が増えないと景気上昇は起きないからです。
一方、2020年の厚生労働省「労働者調査」の給与・賞与の満足度を見ると、「満足」と回答した正社員は11.7%、非正規社員は12%です。「不満」と回答した正社員は34.7%、非正規社員は37.7%でした。2023年から始まった賃上げバブル前の調査ですので、幾分割り引いてみないといけませんが、いつの時代も給与に対する満足・不満足は存在しており概して不満足の割合が多いと言えます。
例えば、平均給与が40万円の会社で、独身のAさんは余人をもって変えられない高度な仕事をしており50万円と高い評価を受けています。しかし、同じ職種で他社に勤める友人たちは70万円以上もらっています。Aさんは5%UPの昇給で52.5万円になりましたがうれしくありませんし、満足していません。
一方、非正規社員から転職して正社員になった4人家族のBさんはAさんと同じ会社、同じ職種で30万円の給与をもらっています。平均より10万円、Aさんより20万円低いのですが、Bさんは満足しています。年収ベースで100万円近く増えたからです。前職では人使いが荒く、勤務が不規則で休日出勤や残業も多く、賞与も少なくて、家族に負担をかけていました。5%UPの昇給と聞いて大喜びで満足しています。
ところで、皆さんはイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレート先生(1848-1923)をよくご存じだと思います。パレート法則やABC分析でおなじみの方です。もともとエンジニアとして鉄道会社で頭角を現し大活躍したのですが仕事に疲れて引きこもってしまいました。縁あって著名な経済学者ワルラス先生と知り合い、経済学者となりました。そこで、発見したのがパレートの法則と呼ばれるものです。2割の富裕層に8割の富が集中している「富の偏在」を発見したのです。上位2割の商品で8割の売上高を占めるというABC分析はその応用でもあります。2:8の法則で一般化され現在でも使われています。必ずしも論理的に完全一致するわけではないのですが大方その傾向があるのは間違いないです。
その後、パレート先生は人間の論理的行為を分析対象とする経済学では解明できないことが多いと実感し、人間の非論理的行為を分析対象とする社会学を研究することで、「現実の人間は、感情・欲求などの心理的要因にしたがって行動する非論理的傾向が強く、しかも人間の非論理性が社会の構造を規定している」と喝破したのです。
ある時、蟻の集団分析をしていた時、積極的に働く蟻2割、普通に働く蟻6割、働かない蟻2割で構成されていることを発見したのです。積極的に働く蟻2割を取り除くと、残りの8割の中から積極的に働く2割の蟻が誕生したのです。「これはいける!」と思ったのでしょう。これを社会に当てはめて検証した結果、どのような集団も蟻と同じような構成が想定されることがわかったのです。いわゆる「2:6:2の法則」です。社会は非論理性で成り立っているのです。これを給与に当てはめるとどうなるか。
「昇給があると金額の多少にかかわらず、『評価された』と喜びます。その喜びは約3か月持続します」。これは私の経験則です。ある時、これをフルタイマーのパートさんの時給で検証しました。
Aさんは、3か月毎に時給10円昇給します。Bさんは1年に一度40円昇給します。どちらが意欲的なモチベーションが働くか検証したのです。すると、Aさんの喜びは年中持続し、Bさんの喜びは3か月で消えてその時給が当たり前になりました。金額にしてAさんは160時間×(10円×3か月+20円×3か月+30円×3か月+40円×3か月)=48,000円昇給します。Bさんは160時間×40円×12か月=76,800円昇給します。Aさんは金額的には少ないのに、喜びは大きく持続するという結果になりました。
もちろん、個性や家庭環境や価値観も影響するでしょうが、モチベーションを向上し、喜んで楽しく働くAさんは生産性が高く建設的です。
全員が納得し、満足する方法は難しいですが、パレート先生の「2:6:2の法則」で2割の社員が納得している仕組みが大事です。
もう一つ、パレート先生が喝破した「現実の人間は、感情・欲求などの心理的要因にしたがって行動する非論理的傾向が強く、しかも人間の非論理性が社会の構造を規定している」ことを踏まえて、昇給頻度を増やすことも一つの方法になるのではないかと思います。