No.1254 ≪イノベーションを起こす組織を作ろう≫-2023.3.29

20世紀最高峰の経営学者ピーター.F.ドラッカー先生(1909-2005)は、著書「マネジメント」(ダイヤモンド社刊)の中で、企業の目的は『顧客創造である』と喝破し、顧客を創造するためには3つの機能が経営には必要だと説きました。
一つはマーケティング機能、2つ目にイノベーション機能、3つ目に生産性機能の3つです。一つ目のマーケティング機能、3つ目の生産性機能は何となく日ごろからなじんでいますのでどうすればよいかイメージできますが、2つ目のイノベーション機能は少しわかりにくいと思います。ドラッカー先生はイノベーションとは「顧客の新しい満足の創造だ」と言っておられます。会社をより大きく成長させるよりも、よりよくすること、そのために、よりよい製品、より多くの便利さ、より大きな満足、そして結果としての価格低下を目論むことがイノベーションにつながると説いておられます。

イノベーションにはトライ&エラーが不可欠で、人がやっていないことをやらないとイノベーションは起きません。人と同じことをやって成果を上げるには人の数倍の努力をするしかありません。それはイノベーションではありません。まだだれもやっていない事をやるのは失敗がつきものです。その失敗の中にヒントがあるのです。エジソンは「1%の閃きと99%の汗(努力)」を説きました。低価格で効率的な電球をつくるために約2,000種類のフィラメントを試し、ようやく発明したのです。「私たちの最大の弱点は諦めることにある。成功するのに最も確実な方法は、つねにもう一回だけ試してみることだ」ともいっています。
また、ユニークな製品開発で日本をリードしたホンダの本田宗一郎氏は「99%の失敗があって、初めて1%の成功がある」と喝破されています。そのために「失敗表彰制度」や一番失敗した社員には「社長賞」まで与えています。1回や2回の失敗で批判されてへこたれていてはイノベーションは起きないのです。

では会社としてイノベーションを起こすにはどうすればよいか。それには会社の中に、特に経営者の思考の中に「心理的安全性」を守護する仕組みが必要不可欠であることがわかっています。
イノベーションに不可欠の「心理的安全性」で参考になるのは、Google社が社内に無数にあるプロジェクトの中で最も生産性の高いプロジェクトとはどのようなプロジェクトか2012年〜2015年の4年間をかけて研究した「チーム・アリストテレス」の研究報告があります。

当初、多数の優秀な人材を好待遇で集めたプロジェクトが最も生産性が高いだろうと仮説を立てて調査したところ、意外にも全くの不相関でした。心理的側面からアプローチしたところ高い相関性を示すプロジェクトが多数発見されました。高い生産性を示すプロジェクトにはつぎの5つの共通要因があることがわかりました。
1.心理的安全性:誰もが安心してリスクを冒し、意見を述べ、質問できるような環境。メンバーが危機に陥ってもリーダーが「上空援護」を担い、安全圏を作り出すことで、リスクを冒してチャレンジできるチーム。
2.信頼性:皆が基準品質を超えた仕事を、時間内に終わらせることができる信頼性。
3. 構造と透明性:皆が明確な役割、計画、目標を持っている。
4. 意味:皆が仕事に個人的な意義・ミッションを感じている。
5. 影響:皆が自分たちの仕事には大きな意味があり、社会全体の利益にプラスの影響を与えると信じている。

どう思われますか?なるほどと思いませんか? 「心理的安全性」を会社の中で担保する。これによってイノベーションが起きる可能性は飛躍的に高まります。新しいことをなすのは「ヨソ者、バカ者、ワカ者」だと言われますが、その通りですね。別の表現をすれば「門外漢、無知、素人」になるでしょうか。
最初に鳥のように空を飛びたいと思わなければ飛行機は発明されなかったでしょうし、もっと簡単にコンピュータを使いこなしたいと思わなければパソコンは普及しなかったでしょう。
イノベーションには「ワクワク」「ドキドキ」する高揚感と「あそび」に通じる楽しさと「ユルサ」が必要なのです。

イノベーションを起こすチームの着眼を以下に示します。
1.イノベーションは社外に起こす変化なので、「顧客ニーズ」から出発する。
2.イノベーションインパクトは人口構成の変化であり、それを利用するための戦略を持つ
3.イノベーション戦略は、すべてのものを計画的に陳腐化し捨てること
4.既存事業はできるだけ最小限に抑え、「正しい機会」に最大限の経営資源を計画する
5.イノベーションを起こす社会や経済の変化は「脅威」ではなく「機会」であり、変化に抵抗するのは「無知」と「不安」だが、これは「機会」と認識することで消える。

イノベーションを起こせる原動力を社内に蓄積することが未来に生き残る必要不可欠な経営の覚悟です。