No.1246 ≪DX時代のリスキリングの重要性≫-2023.2.1

経済産業省が2018年にDXを提唱してすでに5年になります。DXの定義は様々ですが、基本的な考えは以下の通りです。「DXはDigital Transformationの略で、進化し続けるデジタル・テクノロジーで人々の生活をより豊かにするためにあらゆるシーンを変革すること」です。例えば役所のDX(デジタル×役所業務)は業務目的別に個々バラバラに動いているシステムを統合して、365日24時間、誰でもどこからでも必要な手続きができ、欲しいデータや書類が手に入る電子役所になることです。しかも、役所は限りなく無人に近い状態でこれを実現することが可能です。マイナンバーカードはその主要ツールと言えます。
教育DX(デジタル×教育)、医療DX(デジタル×医療)、政治DX(デジタル×政治)、軍隊DX(デジタル×軍隊)、エネルギーDX(デジタル×エネルギー)、、、まだまだありますね。ネットにさえつながれば時間や空間や物理的な制約を超越して、業務処理は自動化され、さまざまなプラットフォームがクラウド上にできることで、少数精鋭で仕事が進んでゆくのです。今まで携わっていた大半の人は不要になります。

役人だけみても全国の公務員は332万人(2020年)。その半数は新たなスキルを身に着けて人材不足で困っている職場に異動するか、時代が求める新たな仕事を創造しなければなりません。あらゆる膨大なデータや資料や書類を検索・分析して何らかの結果を出すような職業は時代が必要としなくなってゆきます。例えば、行政関係者、銀行関係者、法曹関係者、ファンド関係者、教師、税務関係者、会計関係者、コンサルタント、政治関係者・・・最終的には1000万人単位で失業者が出てきます。今の通常国会で議論されている「育休時のリスキリング」批判は当事者には大きな問題でしょうが、全体から見れば砂浜の砂に近い問題と言えます。

人類の進化とともに、豊かさと幸せを求めて、「人間性」と「生産性」を高めることはいつの時代も避けて通れない両輪のテーマです。そのために様々な道具を発明してきました。今まで画期的な発明が数多くありましたが、中でも数字と文字の発明は別格です。異文化間のコミュニケーションを可能にしたのですから。この結果、記憶から記録へのパラダイムシフトが起き、多くの知恵を体系化した学問が発達し、新発見の事実を積み重ねて検証することで科学となりました。科学とはだれがやっても同じ結果を得られる論理的な再現性を言います。

そして中世の社会と経済を革新的に進化させた産業革命が起きます。蒸気機関と紡織機が合体したミュール紡織機は製品の高品質化と機械の大型化による高生産性を可能にしました。多くの高賃金熟練工が失業し、低賃金の不熟練工は過酷な労働環境になり、工場打ちこわしなどの暴動も起きています。この時もリスキリングは必要だったのです。

次に社会を変えたのは「核技術」です。永久機関ともいえる原子力の発明です。これにより、人類は地球のエネルギー資源の枯渇リスクから解放されたのです。しかし、一方で軍事的には核兵器にも転用可能なことから普及に制限がかかっていますが、高性能で小型化した安全なプラントになることでしょう。しかし、大量の失業者をだすような社会変革の影響はないと思います。

次に社会を変えたのは「ネット技術」です。コンピュータは1940年代には理論的な完成を見ていましたが、社会に浸透するには特別な教育を受けたエンジニアによるプログラムで動くオフコンが中心でした。オフコンは設備も高価でプログラム開発費も最低でも数千万円と莫大で、使い勝手もあまりよくありませんでした。さらに保守費用も高く専門人材も必要としました。主に事務や産業分野のインフラ基幹システムとして普及し生産性を向上させましたが成果は限定的だったように思います。このオフコンがダウンサイジングしてパソコンが開発されたことで飛躍的に社会に浸透しました。1990年のころです。高度な知識と技術をもったプログラマーでなくてもビルゲイツが開発したMS-DOSを使えば仕事ができて大変便利でした。1995年にはWindowsのリリースとインターネットの商用化でネット社会が到来しました。デジタル化が進み生産性は飛躍的に向上しました。
それでもまだ一部のマニアックな人々の高級な道具に過ぎない所がありました。これが一気に庶民に普及したのは2007年のiPhoneに代表されるスマホです。胸ポケットに入るパソコンの誕生です。世界中でWi-Fiネット環境が整備され、仕事のやり方が全く変わってしまいました。ネット上にクラウド蓄積されたビッグデータを検索・解析するAIが深層学習技術を身に着けることで人間の想像力の一部を代用するレベルに進化しました。この変化は「第2次産業革命」に匹敵します。ダボス会議の推計によると2030年までにリスキリングが必要な対象者は世界で10億人と言われ、マッキンゼーレポートによると日本では1660万人だそうです。

リスキリングは10年以内に必ず到来する未来ですので、中小企業と雖も対策を急がねばなりません。新たなデバイスの扱いに慣れること、エクセル関数の扱いに熟練する、データ分析や解析技術を身に着けることだけでも大いに効果があると思います。合わせてロジカルシンキングとファシリテーションをマスターすることをお勧めします。