No.1185 ≪景気調査に学ぶ「今の現実」≫-2021.10.27

10月1日に緊急事態宣言及びまん延防止重点措置が完全解除され、それをうけて全国で人流規制や営業自粛規制が撤廃されつつあります。アフターコロナの段階に入り経済が回ってゆくことを祈るばかりです。
政治的には、たとえ第6波の襲来があっても緊急事態宣言や蔓延防止重点措置が発令されることはないのではないかと思っています。ワクチン接種率も10月25日時点で70%超となり、先進国で2番目となりました。検査能力も向上し、飲む治療薬も年内には緊急使用許可が出るでしょうから初期段階で抑え込むことが可能になるので、第5波のような医療崩壊は起きないと思うからです。ただ、官僚も政治家も失敗を認めたがらないため反省を教訓に変えて対策を打つのが世界でも最も苦手な国民性ですので油断はできませんが。

さて、中小企業庁と中小企業基盤整備機構が定期的に全国の中小企業約18000社の中小企業の景気動向調査を行っており、第3四半期(2021年7月~9月)の結果https://www.smrj.go.jp/research_case/research/survey/index.htmlを公表しています。景気動向について「好転」「不変」「悪化」の内、「好転」-「悪化」をDI(景況感)として表示しているものです。
ここでいう中小企業とは、製造業・建設業は資本金3億円以下又は従業員300人以下の企業、卸売業は資本金1億円以下又は従業員100人以下の企業、小売業は資本金5千万円以下又は従業員50人以下の企業、サービス業は資本金5千万円以下又は従業員100人以下の企業を対象としています。また中小企業の約8割を占める小規模中小企業の定義は、製造業・建設業は従業員20人以下、卸売業・小売業及びサービス業は従業員5人以下をさします。

調査結果を見てみましょう。前年同期で比較すると、全体では「好転」11.7、「不変」45.3、「悪化」43、DI△31.3で悪化しており、中規模では「好転」18.2 「不変」47.5 「悪化」34.3、DI△16.1、小規模では「好転」9.9 「不変」44.7 「悪化」45.4、DI△35.5で小規模がさらに悪化していることがわかります。業種別にDIだけ見ると、製造業は△16.8(中:△0.7 小:△22.9)、建設業△18.2(中:△15.3 小:△18.7)、卸売業△27.4(中:△18.1 小:△37.5)、小売業△45.3(中:△34.3 小:△46.7)、サービス業△37.7(中:△23.3 小:△41.4)と小売業、サービス業の悪化が顕著だとわかります。来期についても楽観的な捉え方は少ないです。

売上高、受注高、引合数、製造数量、客数については、景況感と同じような結果が出ています。
輸出額については多少明るい見方をしており、全体では△2.1(中:+1.6 小:△4.2)、来期については全体で+0.6(中:+4.1、小:△1.3)と製造業を中心に景気回復が期待できそうです。
また、輸出割合が50%以上の製造業はさらに顕著な明るい見通しとなっており、全体で+17.1となっています。この数字は過去20年間の中で2番目に高い数字で、7年半ぶりの明るい数字になっています。

在庫(製品及び商品及び原材料)の推移をみると、今までは過剰在庫気味で推移していましたが第3四半期になると製造業、卸売業、小売業とも平均△15となり在庫不足の状況になっています。さらに来期も同程度の不足が持続するとみる向きが多いことがわかります。

原料及び商品の仕入単価でみると、全体では「上昇」41.1、「不変」53.2、「低下」5.7、DI+35.4で高騰しており、業種別にDIを見ると、製造業は+53.7(中:+60.6 小:+50.9)、建設業+57.8(中:+59.9 小:+57.4)、卸売業+38.2(中:+42.1 小:+33.9)、小売業+18.8(中:+25.9 小:+17.9)、サービス業+24.9(中:+30.8 小:+23.3)と全業種で高騰しており、中でも製造業、建設業の高騰が著しいことがわかります。来期についてもあまり変わらないという見方がほとんどです。

加工単価や客単価の動向を見ると、製造業の中規模は+6.9を価格転嫁が進んでいますが、小規模は△1.5と弱含みのようです。卸売業は+8.6と中規模、小規模共に価格転嫁に成功しています。しかし、小売業は△29.7、サービス業は△19.6と逆に価格低下が進行しています。コロナ禍の影響もあり、値引きしてでも売り上げを上げないと経営が持たない状況にあると思われます。

次に資金繰りを見てみると、全業種とも△21.4と悪化しており、特に小売業、サービス業は△30以上の悪化となっています。来期になってもこの傾向は改善しないと考えている方がほとんどです。
また、受取手形の期間については、ほとんど変化はないようですが、「長期化」0.9「不変」97.7「短期化」1.4でDIは△0.4と一部短期化する傾向もあるようです。

結果として経常利益の動向を見ると、全体では「好転」10.5「不変」45.3「悪化」44.2、DI△33.7と悪化しています。業種別にDIを見ると、製造業は△21.0(中:△2.5 小:△28.0)、建設業△27.1(中:△24.9 小:△27.6)、卸売業△25.3(中:△15.5 小:△36.1)、小売業△46.0(中:△37.9 小:△47.0)、サービス業△38.6(中:△25.3 小:△41.8)と小売業、サービス業の業績悪化が進行していることがわかります。来期はさらに悪化するという見方が大半です。

この調査結果は比較的私の肌感覚と一致しています。業種別、地域別、規模別にさらに深堀しながら分析しなければなりませんが、仕入原価の高騰を価格転嫁できず、逆に値引きして売上高を作らねばならない状況にある業種や企業があることを考えると、全面解除されたからと言って決して楽観できないことがわかります。また、宣言下にある時は行政の責任ですが、解除されれば企業の自己責任を要求されます。乗り越えないといけない苦境はこれからだと思っています。今回の総選挙の結果、明るい希望の持てる国づくりに一歩近づくことを願ってやみません。私たちは今こそ、適正な利益をいただけるよう他社にまねのできない商品やサービスを磨き、ブランド化を強力に押し進めねばならないと思います。まずは、変人奇人になって、若者・馬鹿者・よそ者の心境で辺境より改革を進めてゆきましょう。