No.1176 ≪数字をどう読むか≫-2021.8.25

「7773社」この数字は何だと思いますか? 東京商工リサーチが発表している2020年の1年間の倒産件数です。なんと31年ぶりの低さです。日本でコロナ禍が始まったのは2020年1月22日以降です。WHOが3月11日にパンデミック宣言し、日本は4月7日にまだかまだかとやきもきさせられてやっと緊急事態宣言を出しました。オリンピックも延期、GWもなくなり、夏休み、お盆もなくなり、年末年始もなくなりました。飲食、宿泊、旅行、鉄道、航空、商業施設等が営業自粛を迫られ、数えきれないほどの会社が赤字に転落しました。突如政府の方針で人流8割抑制が始まると稼働率は良くて5割、ひどいと9割減少します。これではいかなる名経営者といえども経営はできません。
にもかかわらず、倒産件数は31年ぶりの低さなのです。31年前の1990年(バブルが崩壊した時)は6,468社でした。その時の負債額は1,995,855百万円で1社平均309百万円の負債です。今回は1,220,046百万円で1社平均156百万円の負債で、約半分です。

さらに、2021年上期(1-6月)の倒産件数は3044件です。年間でも見ても昨年より少なくなる可能性が高く、もしかすると1966年の東京オリンピック不況以来になるかもしれません。これは何を意味しているのでしょうか?
ご存じのように破産、法的整理、和議、会社更生等の言葉は法律用語ですが「倒産」は一般通称にすぎません。しかも、信用調査会社等でカウントされている「倒産」は、法的整理されている以外に、手形が2回にわたって落ちずに銀行取引が停止になった企業で、負債額が1000万円以上を対象としています。つまり、現金取引をしている会社は倒産件数には含まれず、たとえ法的整理をしていても負債額が1000万円未満の会社は「倒産」件数には含まれません。
日本の359万社の99.7%は中小企業で、そのうちの85%以上を占める305万社は小規模事業者です。主に影響を受けているのは小規模事業者ではないかと思います。

総務省の労働力調査の完全失業者をみても2021年6月時点で完全失業率は2.9%、206万人です。しかも11か月連続増加しています。年齢別にみると15歳~24歳が4.6%、25歳~34歳が3.6%と平均より高くなっており、男性の方が女性より高くなっています。やっぱり、仕事を失っている人が多いことがわかります、それも若い人が。これは大変です。

ところが、日本銀行が公表している景気調査の一部である雇用DIを見ると2021年6月で、大企業△7、中堅企業△14、中小企業△16、大企業の製造業△2、大企業の非製造業△10とすべての領域で人が不足していることがわかります。失業者が増えているのに、企業はヒトで不足で困っているのです。

では、労働政策研究・研修機構の統計「有効求人統計」を見るとどんどん低下して2021年5月時点で「1.05倍」とほとんど求人がないことを示しています。人は不足しているが求人はしていないということです。しかし、当社の顧問先は積極的に求人募集していますが一向に応募がありません。これはいったいどういうことしょうか?
おそらく、ITやデジタル、リモートの活用した結果、通勤型の働き方は思いのほか無駄が多かったこと、人事制度の見直しに着手した事を踏まえて、コロナが収束するまで今の体制で工夫して、アフターコロナが見通せる頃に行動を起こそうということではないかと思われます。

会社の経営状態はどうかと言えば、2020年の5月以降、コロナ対策資金が無担保・無保証・無金利で一定期間返済据え置きという滅多にない好条件で、申請すればほぼ無条件に融資された結果、資金繰り上は何とかなっているということでしょう。日本政策金融金庫の統計を見ると、その残高は急増し2021年7月時点で約13兆円を超えています。
また、件数は少ないですが、全国銀行協会が政府の依頼を受けて新型コロナウイルス感染症対策として、支払期日を過ぎた手形・小切手であっても取立や決済を行えるようにしており、資金不足により不渡となった手形・小切手について不渡報告への掲載・取引停止処分を猶予することとなっています。
つまり、国や金融機関をあげて企業の経営状態の実態隠しが行われているともいえます。
あっという間に資本性ローンの扱いが急増しました。資本性ローンとは別名劣後ローンともいわれ自己資本とみなされる借入金の事です。普通であれば財務的に融資できない企業に対して大規模融資をして、貸借対照表上の財務内容を良く見せて銀行融資をやりやすくするローンです。表向きは融資先企業の救済ですが、実質は金融機関救済ともいえます。

酷い現実をオブラートした統計になっているのです。オブラートは雪が解けて土が見えるようにいずれ解けてなくなります。いくら有利な条件のコロナ資金も基本は融資ですので、いずれ返済しなければなりません。事業が継続できてこそ返済原資が出てきますが、事業を制限されて返済原資が生まれるかというと疑問です。
強い経営体質を持った企業は生き残りますが、そうでない企業は返済時期と清算時期がほぼ比例するかもしれません。当然、連鎖が生まれますのでその時社会は相当混乱するでしょう。借金棒引きの「徳政令」でも出さない限り、いずれ、より深刻でより酷い地肌が表面化します。その時に備えて、私たちは準備する必要があります。

私のアフターコロナのイメージは、従来のビジネスモデルが淘汰につぐ淘汰で、崩壊してゆき、焼け野原のように破壊され、局地的には雑草も生えないぐらいに荒れてしまうのではないかと思います。小さくてもよいし、試験的でも構いません。アフターコロナに求められるビジネスを今から取り組んでおくことが重要だと思っています。市場は人々が感じる5つの「不」(不便・不足・不満・不快・不安)がニーズです。これを解決するところに事業が誕生し成長します。だから、永遠に「市場はいつも豊穣」なのです。 社内ベンチャー、SOHOをもう一度引出しから引っ張り出して、仕立て直してみてはいかがでしょうか?