No.1133 ≪お天道さんは見てはる≫-2020.10.14

人心の荒廃が著しい。新型コロナウイルスによって浮き彫りになった日本の現実と向き合わねばなりません。
最近のニュース報道で記憶に新しいものだけ拾ってみましょう。
「養豚場から子豚だけが何者かによって盗まれた。その数500頭」
「持続化給付金詐欺が多発。制度を悪用してなりすまし個人事業主で給付金搾取」
「GOTOイートキャンペーンの抜け穴① 鳥貴族錬金術」
「GOTOイートキャンペーンの抜け穴② タダ飯の無限ループ」
「解雇された腹いせに同僚を殺傷して、連行される車中で報道陣に笑顔でVサイン」
「自転車で飛び出し運転して車の運転妨害の『ひょっこり男』が傷害事件で逮捕」
「警察官が速度違反データを偽造し47人に反則切符発行。発覚して逮捕」
「警備していたビルから現金窃盗し、警備員逮捕」
どのような国でもどのような時代でも犯罪はあります。中でも欲望にまつわる犯罪はきりがありません。明らかにやってはいけない違法(ブラック)はほとんどの人はやりません。人間には理性がありますから。
しかし、「違法ではないけれどもなんとなく後ろめたさがあり、迷惑をこうむる人がいる気がす、周囲の皆がやっているがまずいのではないか」と思えるグレーな事件が今起きています。
法律やシステムの穴を見つけて悪用しているのです。

コロナ禍の経済対策の目玉である「持続化給付金」のシステムを悪用した詐欺などはその典型と言えます。この持続化給付金ではITや税務知識に疎く順法意識の強い本物の個人事業主は何度webで申込んでもうまくいかないのであきらめている人が多数おられると思います。ネットでしか手続きできませんので、役所に行って必要書類をそろえてもpdf化できなかったり、選択項目や入力を誤ったので訂正したくてもそのやり方がわからなかったり。送ったデータに不具合があれば自動返信メールが届きますが汎用的な文面ですので、税務知識やパソコン操作に慣れていないと意味不明でお手上げです。一方、窓口側も、サーバーが数度にわたってダウンするぐらい一斉に天文学的な件数を処理しなければならず、形式審査といえども2週間以上の時間がかかります。その間、申請者は不安になって何度も手続きをしてしまうのです。それによって更なる不具合が合発生して意味不明の自動返信メールが届きます。最後は諦めます。自分のせいでうまくゆかないのだから自分さえ我慢すればよいのだから。

反面、制度を熟知した専門家の勧誘に応募した学生や会社員は言われた通りに役所に行って書類を受け取り、実体のない「なりすまし個人事業主」となります。後は専門家が適当に架空データを偽造してあっという間に100万円が入金されるのです。もちろん申請当事者である学生や会社員だけが公金横領詐欺の実行犯となります。しかし、まず発覚することがありません。では今回なぜ発覚したのかといえば、実際に100万円を口座に振り込まれ、専門家に手数料を50万円支払ったけれども、こんなに簡単に大金を手にできるのはおかしいのではないかと親に相談したところ、それは詐欺だから返しなさいと叱られ役所に相談したことによって発覚したのです。このニュース報道で一気に全国でも多数の相談があるそうです。おそらく数十万人規模ではないかと思います。金額にすると数千億円です。
罪の意識を感じた実行犯は、自主返納を希望していると聞きますが、一般的には20%程度の加算税がかかりますので、100万円のうち50万円を専門家に手数料として支払い50万円を手にしましたが、加算税を乗せて120万円を返還するのですから、差引70万円支払って生涯消えることのない犯罪者という汚名を手にしたことになります。

なぜ、このような事態が簡単に起きるのでしょうか?
「公(オオヤケ)意識」が衰退し、「私(ワタクシ)意識」が強くなった風潮がその背景にあるのではないかと思います。「公(オオヤケ)意識」は自分のことよりも他人や世間を優先する心です。利他意識ともいえます。自分さえよければよい、ばれなければ何をしてもよいという利己意識とは真逆にあります。
大正生まれの私の母は貧しさゆえに小学校もまともに通えず文字もまともに書けませんでしたが、「嘘はあかんでぇ。お天道さんがみてはる」「人に後ろ指をさされるようなことはせんといてな」「人からいやなことをされてもしたらあかんでぇ」「人の悪口はあかん」と事あるごとに口癖にしていました。そんな母を尊敬しています。

希薄になっている「公(オオヤケ)意識」を経営陣が背中で取り戻さねばならない時代になっています。誰が見ていなくてもこつこつと地道に愚直に世のため人のために行動してゆきましょう。
まずは誰もいない時間帯に会社のトイレ掃除、付近の道路のごみ拾いから始めませんか? 誰も見ていなくもお天道さんは見ています。パフォーマンスではなく自分磨きのために。それがいつの日にか社員にも伝わり大きなうねりになることでしょう。人心の荒廃を立て直すにはこのような地道な活動から始めなければ立ち行かないと思います。