No.1112 ≪ポスト・コロナの新時代に向かう≫-2020.5.7

ロックダウンしていた国々が段階的解除の動きが始まっています。当面は、平和の時に繁盛する事業、中でも食料品や生活用品、洋装店、理美容院、飲食業、クリーニング業・・を中心とした個人商店の規制緩和が感染防止策を施す事を条件に始まるようです。特に、飲食業でソーシャル・ディスタンスが常識になると、採算は大きく悪化し、成り立たなくなります。ラーメンチェーンの「一蘭」のようなカウンター個席スタイルか、テイクアウトや通販、ケータリング、料理教室、セントラルキッチンを持ったチェーン化を進めないと経営的に成り立たないと思います。どのようなアイデアが出てくるか楽しみです。

新型コロナウイルスの蔓延で、世界はいとも簡単にブロックダウンし、サプライチェーンが分断され機能不全を起こし、国益を大きく棄損することがわかりました。1989 年 11 月のベルリンの壁が崩壊することでメガトレンドになったグローバリゼーションは急ブレーキがかかり形を変えてゆきます。有事体制に逆戻りする国が増えると思います。
「国際社会」の象徴としての国連も「調和」の象徴としてのEU も今までの輝きが消え、有名無実化してゆくのではないかと思います。少なくとも国際サプライチェーンから国内サプライチェーンにシフトします。グローバリゼーションで豊かになった人たちが「憧れの海外旅行」を実現することで世界中に誕生したLCC 航空網やホテル網は戦略の変更を余儀なくされることでしょう。

さて、国内に目を向けると、2020年5月4日(月)18:00から新型コロナ肺炎感染防止について、専門家会議の答申と有識者会議の承認を得て、政府方針を安倍総理が会見で報告されました。
「緊急事態宣言の期限5月6日までに新型コロナ肺炎終息のめどをつけられず申し訳ない。(リーダーとして)お詫びをする。医療のひっ迫状況は継続しており、国民の命を守るため5月末まで継続する」として、またもやリーダーとしての決断の証である明確な解除基準を示さず「解除に向けて5月14日に専門家の意見を聞いて総合的に判断する」と述べるにとどまり、1か月にわたり素直に政府方針を受け入れて過酷な条件を忍耐した人々の努力は報われなかった残念な会見でした。

ただ、「コロナの時代」という表現でウイルスとの共存という概念が示されたのは明るい兆候といえます。なぜなら、有史以来、人類がウイルスに勝利したのはジェンナーが牛痘法を用いた「天然痘ウイルス」の撲滅だけです。風邪やインフルエンザと同種の変異タイプのRNA コロナウイルスと共存するのは人類の宿命ともいえます。多かれ少なかれ犠牲者が出ることはやむを得ないのが現実です。いつまでも隔離、外出自粛を継続してもウイルスはゼロにはなりません。年内のどこかの時点でインフルエンザ化するのは政治家の仕事です。2019年だけ見ても日本のインフルエンザ感染者は1000万人、死亡者は3000人です。ワクチンや治療薬があるので指定感染症ではありません。
だから保健所による隔離も自粛もありません。日本で指定されている伝染病はペスト、天然痘、エボラ出血熱、ラッサ熱、結核、SARS、MERS、ポリオ、ジフテリア、コレラ、腸チフス、赤痢、狂犬病等です。

その夜のテレビ番組に吉村大阪府知事が出演され大阪モデル構想を披露されました。「安倍総理が延長を決められたのだから、賛否両論あるが、国民一致団結してやってゆかねばならない。ただ、事業者は毎日が死活問題なので、5 月末まで延長するならば明確な数値基準をもって出口戦略を示すべきだ。出口のないトンネルをずっと走り続けろというのは無責任だ。国が示せばそれに乗るが、示さないのであれば大阪府は独自にモデルを作る」として、病室の収容率や感染率等の目安を設定する準備に入り、5月5日にその基準を発表しました。
リーマンショックの時に経済的苦境で一時的に自殺者が8000人増えたことを例に挙げられ、「どちらも同じ大切な命だ」、ウイルスは終息しても、それによって自殺者が増えたのでは行政を預かる身として申し訳ない、と。

悲しいことですが、警察庁「自殺統計」による と、過去40年間で自殺者が最も多かったのは2003年の34,427人で、人口の0.37%に当たります。自殺者が年間3万人を超えたのが1998年。40代以上の男性自営業者の自殺が急増しました。その理由は、最初は経済問題、翌年に は健康問題、その翌には家庭問題に波及して増加してゆきました。これには次のような背景 があります。
国税庁の「会社法本調査」によりますと、1995年以降に資本金5000万円未満の会社の赤字率が急上昇し、年々上昇しました1996年には山一證券や北海道拓殖銀行等の金融機関が破綻し、「貸しはがし」が社会現象になりました。1999年には資本金5億円以上の企業においても赤字率が急上昇しました。1995年以降の10年間が中小企業にとって資金繰りと受注面で最も厳しい経営環境だったといえます。この環境が自殺者増加の遠因といえます。

以前にも報告しましたが、日本の会社数のうち、 約330万社は小規模事業主が占めています。全 企業の92%です。小規模事業主は個人事業主や 家業に近く、経理業務もあいまいで、内部留保は貯金程度の企業が多いものです。従業員はアルバイトも含めて約1500 万人おられます。家 族を含めると約 3700 万人がおられます。

今回の新型コロナ・ウイルスによる営業自粛はこの企業を直撃しています。ウイルスから命を守る事も大事です。同時に、経済から命を守る事も大事なのです。この肌感覚と政府及び官僚の判断とのギャップがあまりにも大きく、がっかりします。雇用調整助成金を政治家や役人が一度自分で体験してみることをぜひおすすめします。どれほど難解で厄介でまどろっこしいか。難関を突破して受給できても上限はなんと日額8330円です。この金銭感覚は浮世離れしています。

一方、中小企業は約50万社あり、従業員は2000万人以上おられます。中小企業は、これら小規 模事業主に支えられて事業が継続できている 側面が大きいものです。小規模事業主は社会の雇用の調整弁の機能もあり、社会が安定しているのもこの方々のおかげです。

今こそ、中小企 業は小規模事業主をまもり存続させる努力が必要です。かって、建設業はコストダウンの名のもとに建設従事者の後継者を消滅させました。生活が不安定で夢もなく食べてゆけないからです。その結果、深刻な人手不足に陥ったのはここ数年のことです。

今回のコロナショックはこの教訓を生かせと叫んでいるように思います。日本人が誰かが陰 で支えてくれていることに気づかず、自分さえよければ、便利でさえあれば良いという、豊かで便利な社会に慣れきって、忘れてしまったもの、失ったものを呼び起こそうとしているように思いますが、皆さんはどう思われますか?
中小企業の経営者は生き残るために、新型コロ ナウイルスとの共存を模索しなければなりません。
もちろん、指定感染症である以上、誰かが発症すれば保健所の指導に従わねばなりません。 疫学調査にも協力し、2週間程度の休業も覚悟しなければなりません。「感染者を出さない」ためにできる対策を講じながら、次のステップに 進まねばなりません。