No.1108 ≪やっと見えた。戦時のリーダーシップ≫-2020.4.7

今回は長文ですがお付き合いください。

やっと、出ます。4月7日(火)に政府から「緊急事態宣言」発出が確定しそうです。WHOのパンデミック宣言から4週間、ここまで待つ必要があったか疑問ですが、とにかく前に動きました。
今は戦時です。コロナ・ウイルスという世界共通の脅威との戦いの真っ最中です。すでにウイルスから宣戦布告を受けているにもかかわらず、『これは戦いではない。ギリギリのところで持ちこたえている』と「緊急事態宣言」を発令しなかった日本。まるで「緊急事態宣言」=「敗北宣言」の認識ではないかと疑うほどでした。
孫氏の兵法に「戦力に余裕がなく勝てそうにない場合は守れ、余裕があり勝てるなら攻めろ」というのがあります。
「もしかして、戦力に余裕がないのかもしれない」と憶測を呼ぶ守り一方の戦い方でした。命がけの使命感だけで覚悟を決めて働いているウイルス感染最前線の現場に、感染リスクのない安全な事務所から「まだ頑張れるだろう」と援軍を差し向けない指揮官のようでした。何のためにこの法律を急いで作ったのか。

2012年12月16日の第二次安倍政権発足以来、アベノミクスを支持してきました。政策的には納得いかない点もありましたが、支持してきました。
今回のコロナ・ウイルスに対して、武漢封鎖時にチャーター機を出して邦人を救済した決断と、2月1日に指定感染症に指定し、13日に特別措置法改正法を準備した決断はよかったと思いました。しかし、2月5日に横浜にクルーズ船が着岸してからは、目も当てられない状態になりました。なぜ、乗客・乗組員全員のウイルス検査をしないのか、なぜ、隔離施設を設置しないのかわかりませんでした。おそらく「全員を検査すれば多くの感染者がいる。指定伝染病だから陽性者は入院させないといけない。しかし、全国にあるベッドは103床しかない。今から準備するには時間がなさすぎる。日本の医療の実態が世界に露見し、医療崩壊が起きてしまう。だから、重症者から優先的に検査をする」方針になったのかもしれません。私たちがいつ何時感染するかわからない未知の新型伝染病にもかかわらず、これらの疑問に答えませんでした。

また、巷間、ウイルス感染防止の不手際で世界中に蔓延を許した国のトップをなぜ国賓扱いで招聘するのか、水面下での調整が済んで両国のメンツが保たれた時点で中国からの渡航者の入国拒否方針が出ました。
もっと、早く手を打てば、もっと違った形になっていたでしょうが、すべてがスロースローの経過観察状態になったのは否めません。

私は、世間の情勢や感染者の増加具合からみれば、4月1日には発令されると思っていました。大都市に迫りくる危機を法律の裏付けをもって対処したい東京・小池知事も、大阪・吉村知事も、「手遅れにならないうちに早く出してほしい」と毎日のように懇願され、医療の現場を預かる日本医師会会長も「医療崩壊寸前だ。早く出してほしい」と要請がありました。今まで支持してきた安倍政権に不信感をもちました。

しかし、4月6日朝のニュースで「緊急事態宣言」発令の準備に入ったと報道がありほっとしました。やっと、やっと動いたか。新型インフルエンザ等特別措置法の担当大臣は経済再生大臣を兼務する西村康稔氏ですが、大臣を任命したのは安倍総理です。数々の報道番組で、西村大臣はふたこと目には「専門家の先生と相談して」とおっしゃって、「躊躇しているのではなく、倍々ゲームの兆候が出れば即座に実施する」と一向に煮え切らない状態が続いていました。
ウイルスの勢力が圧倒してから発令していかほどの効果があるのか疑問でした。

「緊急事態宣言」を出すことで政府の方針を国内外に宣明し、自治体の措置に対して法的な裏付けを与えるのが目的のはず。発令前の「要請」は文字通り「お願い」ですが、発令されてからの「要請」は「禁止」に近い社会的効力を発揮します。そこで、はじめてあらゆる経営者や関係者の「覚悟」が決まります。良くも悪くもはっきりします。それによって打つ手が、今までの推測や憶測や仮定が、決定になります。IfからDoに変わります。

専門家会議は執行機関ではなくアドバイザーです。提言することはできても、決断するのは担当大臣であり、総理大臣です。先の読めない中で決断することはリスクも責任も伴います。だから決断はトップしかできないのです。

会社組織も政府組織もその点は全く変わりません。賛否両論に右顧左眄していたのでは、ウイルスに負けてしまいます。ウイルスはRNAウイルスですので日々進化することが可能です。自己増殖のために、動物から動物へ、動物から人へ、人から人へ、人から動物へ感染する能力を日々進化させてきています。RNAウイルスはそういう性質です。
これは中学の生物知識があればわかることです。それが私たちの目の前で現象として起きているのです。

私たちは中小企業の経営者ですので、経営者として事業を継続しなければなりません。雇用を守らねばなりません。緊急事態宣言、ロックダウン、入国禁止、鎖国、事業休業要請、事業の停止命令、土地や施設の強制使用。平時には想像もできなかった命令が今は現実です。ミレニアム(1000年紀)単位の価値観転換の時が来ているのではないかと思います。

1000年前、イスラム教徒からエルサレムを奪還するために始まった十字軍。この戦いは500年続きました。その後にやってきた産業革命は、人々を農村から都市に移動させました。価値観の大転換です。これにより4000年続いた「農耕社会」から「工業社会」の進化が進みました。
今は「工業社会」の進化途上にある「情報社会」ですが、今回のコロナ禍をきっかけにさらに進化することは間違いありません。

人が生まれ生きる目的は、社会を進化させる、人の役に立つことに変わりませんが、その手段としての仕事の仕方はどんどんと変化しています。アフガニスタンで貧困克服に生涯をささげ、銃弾で命を落とされたペシャワール会の中村哲医師は、「医療よりも水、水があれば農業ができる。農業ができれば平和が来る」と聴診器をつるはしに持ち替えて井戸をほって地下水をくみ上げました。
その数600か所以上。しかし、農業をするにはもっと大量の水が必要でした。ジャララバードを流れるクナール川から水を引き用水路を作ろうと提案しました。井戸掘りで疲れ切っていた人々は反対しました。しかし、中村医師は「議論はいらない。実行あるのみ」と率先垂範して重機に乗り込みました。
その結果、見渡す限りの砂漠から肥沃な緑の大地に代わったのです。病人を救うためにアフガニスタンにやってきた中村医師は、真の脅威である「貧困」に正面から勝負を挑み、そして勝ったのです。

1996年12月公開されたアメリカのSF映画「インデペンデンス・デイ」が大好きで、何度も見ました。アメリカの独立記念日の前々日7月2日に、ニューヨークはじめ、世界の大都市の空に直径24kmにも及ぶ巨大宇宙船が現れ、人類を攻撃します。最初は各国がばらばらに通常兵器で攻撃するのですが、通常兵器は宇宙船のバリアーに無効化され全滅します。そこでアメリカ大統領が核兵器の使用を決断しますが、これも無効化されます。
アメリカの一介のケーブルテレビ技術者が宇宙船のバリアーを解除する方法に気づき、大統領に作戦を具申して、自ら作戦の実行者となり宇宙船に侵入します。あらゆる通信は宇宙船に傍受されているので手の内知られないように、世界の政府・軍隊がモールス信号で連絡を取り合い、バリアー解除とともに、一斉に宇宙船を攻撃し、ついに撃破するという内容です。
アメリカ大統領が「今日はアメリカ合衆国の独立記念日であるとともに人類の独立記念日だ」と宣言して物語は終わります。

変化は悲喜交々、盛衰があります。平家物語(作者不詳)の有名な一節に「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理を顕す」。