No.1107 ≪小説「20XX年 REBORN WORLD(2)」≫-2020.4.2

これはフィクションです。不要な方は削除してください。
先週からの小説「20XX年 REBORN WORLD(1)」続きです。

近年、世界中の国々を巻き込んで多くの人命を奪った大きな戦争が二度あった。第一次世界大戦と第二次世界大戦である。しかし、この時は勢力を拡張するために国益優先で対立するグループと戦う「目に見える戦い」だったので、最前線の情報を把握することで、今後起きうる事態を想定することができた。第一次世界大戦では同盟国と連合国に分かれ、第二次世界大戦でも連合国と枢軸国に分かれ敵味方が明確だったからだ。
また、大英帝国、フランス帝国、オランダ帝国、ドイツ帝国、ロシア帝国、アメリカ帝国、日本帝国といった主要国は世界中に植民地経済圏を持っていたので経済活動はなんとか継続することができた。

ところが、今回は「目に見えない偽装RNAコロナウイルスとの戦い」である。世界の保健情報を統括する組織はあるにはあるが、政治に明け暮れて機能停止していた。各国は独自で努力し、友好親密国と協力し、見えないウイルスと戦うことで国体を維持していた。
国境を封鎖し、人々を自宅軟禁し、経済活動を禁止した後にやってくる事態は容易に想像できた。人々が買い物できない世の中では、個人商店は廃業に追い込まれ、物資を生産する企業は生産停止し、倒産する企業が後を絶たず、倒産しないまでも創業以来大幅赤字になる企業が続出した。失業者が大量に生まれた。最初のうちは買いだめに走ったが、1か月もすると店に商品が並ぶことはなかった。各国政府は備蓄品を配給することで人々の不満を吸収したが、それも焼け石に水の状態だった。偽装コロナウイルスに感染して重症化する前に、餓死してなくなる人が増えた。

政府は救済策に乗り出し、超大型の予算を組んで対応しようとしたが、経済活動の停止を命じられている企業を救済するにはGDP相当の予算を投入する以外方法はなかった。しかも、税収はないのだから、内部留保資金が枯渇すれば救済すらできない。
今回は、一部の途上国に起きている事態ではない。検査機能も医療設備も充実しているG7のような高度に経済が発展している先進国において激化しているのである。経済も脆弱で、医療設備の乏しい途上国では、感染しても検査機能がなく、重症化しても病院にすら行けない。せいぜい難民として国を出ることぐらいしかできない。この難民が次の感染を広げるかもしれないのだった。

各国のリーダーは、優秀な頭脳を集め対策を協議したが、百家争鳴で結論が出なかった。目先の生活費をヘリコプターマネーでばらまいても、品物がない状態では悪質なハイパーインフレを起こし、もっと深刻な事態に陥るだけだった。暴動や内戦の兆しがあちこちで発生していた。次第に権力の根源を失い、リーダーと人々が離反してゆくと、打つ手が次第に限られてきた。
『いったんリセットすることがもっとも賢明だ』と判断したリーダーは、国のデフォルト宣言をいつにするかそのタイミングをうかがった。

一方で、ウイルスコントロールがうまくゆき、相対的に感染被害が少なく、経済力も温存できて、人々も政府を信頼し、忍耐強く指示を守り、統制が取れている国があった。その国のリーダーは人心を掌握し、人々の声に真摯に耳を傾け、できることは何でもすぐに実行していた。
国外からの入国制限はしているものの、国内ではクラスター管理を徹底し、感染源を解明する調査能力にたけていた。感染者には症状に応じて治療ガイドラインを明確にし、重症者には優先して高度医療を施していた。
治癒して退院する人が、感染者を上回っていた。必要な設備は充足され、医療従事者は尊敬され、そこでは医療崩壊は起きていなかった。

その国では、次第に抗体を生成した人が人口の半数以上を占めたころから、感染者が激減していった。この国のリーダーに支援要請が殺到した。支援要請のあったすべての国を救済するだけの資金と人材と設備はなかったが、価値観を共有できる国々とは極力連携を取ることにしていた。価値観とは、「地球環境ファースト」である。
2000年に国連で採択されたMDGsは2016年にSDGsに発展的に改称し、ESGやCOP25と姿形を変え世界に宣明されてきたが、各国の国益優先で議論のための議論に終始した。この状況に危機感を強めていたリーダーは、地球環境の復旧と保全を第一の価値観に定め、新たな世界秩序を再構築することが目的であった。世界は「地球環境ファースト」という新しい価値観の下で、対立から調和へ、効率から安全へ、不安から安心へと少しづつ平安を取り戻していった。
世界中の優秀な頭脳をもった製薬会社や研究機関はワクチンの開発や治療薬の開発を急いだ。しかし、時々刻々と変異する能力のある偽装RNAウイルスに特効薬は見つからなかった。
世界中で自然抗体を生成できた人たちが増えるにつれ、ウイルスはその伝染力を弱め、終息していった。ある都市でウイルスが生まれてから、数年の月日が流れていた。 以上でフィクションは終わりです。

私たちはもっと深刻に今の事態を受け止め、もっともっと想像力をたくましく今後起きてくる事態を想定しなければならないと思います。